「人生1回きり」20歳で五輪入賞した“天才”の30年後…400m日本一と異色タッグ、50歳で挑む「最後の大仕事」
競技への気持ちが似ている2人 「ワクワク」を道標に
寺本はすでに800mを3レース走っている。昨年の11月の初800mを2分10秒54で走り、今年は7月にホクレンDistance Challenge深川大会、士別大会を中2日で連戦。士別大会では2分08秒55で組1位を取った。
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寺本は「1周加わるだけで全然違う」と800mを走ってみて思った。2周目がまったく動いていない、と感じられたようだ。「これから長い距離のジョグやペース走をやっていくと聞いていますが、苦労すると思います」
それに対して千葉さんは7月の2連戦に合格点を出している。
「士別は3番手につけて、ラストで差すお手本のようなレース展開でした。深川大会の前に胃腸炎になって練習できない期間がありましたし、そもそも800mの練習はまだしていないのに2分8秒です。少し練習すれば2分5秒くらいすぐに行くと思います」
士別大会が行われた7月18日は千葉さんの50歳の誕生日。寺本は組1位の選手に渡された花束を、千葉さんにプレゼントした。千葉さんは自身の誕生日の他にも、寺本との「巡り合わせ」の妙を感じている。指導者としてスタートしようと思っていた50歳の前年に、寺本が3秒記録を伸ばしたこと。寺本が生まれた2003年は、パリ世界陸上のマラソンで銅メダルを取った年だったこと。
選手としては“真逆”の2人だが、考え方や性格に共通点もある。寺本が高校で結果が出なくても大学で競技を続けたのは、「負けず嫌いで中途半端で終わるのが嫌」だったからだ。「手を抜くのが嫌で、苦しいけど我慢して練習を続けていました。その積み重ねで大学3年の後半から記録が伸び始めたんだと思います」
千葉さんも現役時代は、陸上競技を始めてすぐに結果を出したところは天才的だったが、マラソンでは国内のライバル選手に負けて悔しい思いをすることが多かった。インタビューでは何度も「負けず嫌い」と自身についてコメントしていた。姉弟子に当たる高橋尚子さんと同じハードな練習にも、必死で食らいついた。
寺本は千葉さんに対し、次のような印象を持っている。
「お話を聞いていて、すごく走られてきた方なんだな、というのがわかりました。千葉さんの選手だった頃の競技に対する気持ちと、今の私の気持ちは似ているんじゃないかな、と思います」
自身への“ワクワク”を持っていることも共通点だ。千葉さんは「高校時代にインターハイに行けませんでしたが、自分がどこまでできるのか、可能性を見てみたくて実業団に入りました。ワクワクを道標に競技生活を進めたんです」と現役時代を振り返った。
寺本も記録が伸び始めた昨年、「自分がどこまで行けるのか」と、卒業後の競技継続を考え始めたが、千葉さんと同じ感覚だった。
千葉さんは指導者としてスタートした今の気持ちを、次のように話した。
「天才×天才ですが、(800mの)初心者×(指導者の)初心者でもあるんです。その2人の化学反応で何が生まれるか、本当にワクワクしています」
寺本と千葉さんの「大冒険」(千葉さん)がどんな進み方をするのか、我々もワクワクしながら見守りたい。
(寺田 辰朗 / Tatsuo Terada)
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