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世界に「北島康介以上」の衝撃 日本競泳界の新スター・17歳大橋信の「2分4秒83」が与える大影響

鳥肌が立つほど、素晴らしい泳ぎだった。愛知・名古屋アジア大会競泳男子200メートル平泳ぎ決勝が24日、東京アクアティクスセンターで行われ、17歳の大橋信(枚方SS)が2分4秒83の世界新記録をマーク。23年の福岡世界選手権で中国の覃海洋(タン・カイヨウ)が出した記録を0.65秒も更新した。

男子200メートル平泳ぎ決勝で世界新記録をマークした大橋信【写真:ロイター】
男子200メートル平泳ぎ決勝で世界新記録をマークした大橋信【写真:ロイター】

愛知・名古屋アジア大会

 鳥肌が立つほど、素晴らしい泳ぎだった。愛知・名古屋アジア大会競泳男子200メートル平泳ぎ決勝が24日、東京アクアティクスセンターで行われ、17歳の大橋信(枚方SS)が2分4秒83の世界新記録をマーク。23年の福岡世界選手権で中国の覃海洋(タン・カイヨウ)が出した記録を0.65秒も更新した。

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 アジア大会で世界記録といえば、2002年釜山大会で北島康介が同じ200メートル平泳ぎで出したのが印象的。北島はこれを自信にして04年アテネ五輪、08年北京五輪で連続2冠を達成した。北島は17歳でシドニー五輪4位に入り世界でも知られた存在になっていたが、大橋はシニアの国際大会にデビューしたばかりの快挙。世界に与えた衝撃は、北島の時以上だろう。

 競泳の場合、五輪の前後の年に世界選手権が行われる。五輪中間年は唯一「世界」大会がなく、代わりに欧州選手権と競泳大国の米国やオーストラリアが参加するパンパシフィック選手権がある。選手やコーチ陣は大会でのメダル獲得とともにタイムを気にする。欧州の選手はパンパシで出た記録を、パンパシに出場する選手は欧州勢の記録を、五輪のメダル獲得に向けて見えない相手とタイムで争うのが五輪中間年だ。

 かつては他の競技会のタイムを知ってビデオを取り寄せるなどしていたが、今はネットを通して大橋の驚異的なピッチ泳法が瞬時に世界に拡散される。ライバルたちはアジア大会で出た記録に驚き、17歳を新たなターゲットにする。大幅な記録更新でロス五輪までの強化方針を変更する選手がいるかもしれないし、中には戦意を喪失して200メートルを回避する選手だっているかもしれない。それほど、タイムの力は絶対的だ。

 大橋はシニアデビューを前に「世界に名前を知られる選手になりたい」と話していたが、知られるどころか世界中の目標にされる選手に躍り出た。水の抵抗を極力少なくしながら回転数を上げ、最後までラップが落ちない大橋の泳ぎは、世界の平泳ぎ選手にとって新たな手本にもなる。

 米国やオーストラリアが出場してレベルも高いパンパシに比べて、アジア大会での主なライバルは中国くらい。例年なら日本選手はパンパシに照準を合わせてアジア大会はその余力で戦うようなパターンが多かった。それでも十分にアジアではメダルを量産できるからだ。

 ただ、今回は地元開催だ。会場は東京五輪の舞台にもなった東京アクアティクスセンター、記録も出る最新鋭のプールだし、スタンドには五輪とは違って観客も入る。テレビ放送も過大に盛り上げるから、選手たちの「本気度」も違った。大橋も「日本開催が、いい記録を出せた要因」と話した。

 メダルの個数には、あまり意味がない。「前回大会の30個を上回るか」とテレビは煽るが、厳しくいえば前回を上回るのは当然でもある。何しろ金5個を含む30個と言う前回は過去最低ともいえる成績、前々回18年は金19個で計52個、14年は金12個で計46個だったのだから。

 もちろん、アジアが目標なら今大会のメダルは大喜びなのだろうが、競泳日本代表選手が目指すのは2年後の五輪(のはず)。メダルの色以上に、タイムが重要だ。8月に行われたパンパシと合わせて五輪2年前にどこまでタイムを伸ばせたかは、残り2年の強化方針にも大きく影響してくる。

 これまでのアジア大会ではメダルの数など話題にならなかった(18年は池江璃花子の6冠が注目されたが)のに、地元大会というだけで急にクローズアップされる。競技が注目されるのはいいけれど、メダルばかり騒ぐのには違和感もある。前々回までは各種目で表彰台が当たり前だったから、今大会はメダルの数だけなら好成績とはいえない。

 それでも、すべてのマイナスを吹き飛ばすほど大橋の記録は価値が高い。普段はトップ選手の「本気度」も今ひとつで、世界も注目しないアジア大会の競泳だが、169センチの17歳がその価値を2分強で一気に高めた。「アジアの大会で日本の17歳が、とんでもない記録を出したぞ」。ライバルたちのざわめきを思うだけで、久しぶりに競泳で爽快な気分になる。

 北島が200メートル平泳ぎで最後に世界記録(2分7秒51)を出したのは08年。それから18年で実に9人が記録を更新、12年には山口観弘が2分7秒01、17年には渡辺一平2分6秒67の世界新を出すなど群雄割拠の中で「お家芸」として日本勢の活躍も目立つ。ただ、山口も渡辺も五輪のメダルには手が届いていない。それほど、平泳ぎは難しい種目でもある。

 驚異的な世界記録で一気にロス五輪の金メダル候補に躍り出た大橋。低迷気味だった日本競泳界に飛び出した新たなスターから、当分は目が離せそうにない。

(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)

荻島 弘一

1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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