「電話は1年生が呼出音3回以内に」 部の理不尽、低迷期を知り…“クソ真面目”だった主将が令和の明治に戻ったワケ
日本代表SO伊藤龍之介の起用方法について聞くと予想外の答えが
この伝統校の若き指揮官の話を聞いていて強く感じるのは、スポーツが「結果」を求める宿命があるのと同時に、指導者としては、そのゴールへ向けた足跡の中で、選手たちがどんな「振る舞い」をしていくのかが大事だという価値観だ。それは、高野自身のここまでの経験でも裏打ちされていることかも知れない。
【注目】「この体重でも跳べるんだ」 月経異常や骨密度低下を経験、引退後に気づいた数字に縛られない体作り(W-ANS ACADEMYへ)
「僕自身の感覚では、個人的に今はすごく幸せだと思っています。でも、振り返れば、正直僕自身は“勝ってきた人生”じゃない。天理でも明治でもね。結局、何かに勝ったから、その後の人生が豊かになるというわけじゃないんだと思います。なので、どう生きてきたのか、どんなマインドで取り組んできたか、ここから成長していきたいという姿勢が、その先の人生に繋がると思っています。そういうところは、是非、選手にも伝えていきたいですね」
そんな価値観は、誰から教わったものではなく、自身の選手として、そしてコーチとして経験してきた中で培われてきたものだという。凡事を徹底することで、その先に待つ幸せを掴む。そんなシーズンを、高野は監督として迎えようとしている。
インタビューしたのが8月末の菅平合宿というタイミングでもあり、チームや高野監督の事以外に、1点聞いておくべき案件があった。日本代表でプレーを続けるSO伊藤龍之介(4年)の起用方法についてだ。代表での経験値を伸ばさせるか、明治での最終学年に注力するのか。指導者としても悩ましい選択かと思ったが、予想外の答えが返ってきた。
「悩みどころではないというか、そんなに心配してないですね。彼もこの合宿には参加して、いろいろと話はしています。勿論、代表に参加することは大きな経験になる。でも、彼はおそらくこっち(明治)を選ぶと思っています。1年生から合宿所で一緒に過ごしてきた身近な仲間を一番に思って選択するだろうと思うし、彼と話している限りそう感じます。勿論、彼自身がどうしたいかを聞きますが、もし何か違う方向かなと思えば、僕の意見は言っていくつもりです。同じ4年生たちも、そう(明治でプレーしてほしいと)思っています」
現在は9月のカナダ代表戦(9月5日、新潟・ビッグスワン)、パシフィックネーションズカップ・アメリカ戦(12日、大阪・花園)、同最終順位決定戦(19日、東京・秩父宮)へ向けた代表合宿メンバー入りしている伊藤だが、この9月を代表でプレーをする可能性が高い一方で、10月のフィジー代表との日本協会100周年試合、そして11月のヨーロッパ遠征と、どこまで代表でプレーするのかは明治大ラグビー部と代表チームの協議が続いている。その一方で、あるラグビー部関係者からは、チーム内ではより早い段階で大学に戻ることを求めているとも聞く。
対抗戦日程を見ると、明治は11月22日には帝京大戦、そして12月6日に伝統の早明戦が組まれている。首脳陣の中では、連覇のためにも対抗戦を1位通過することで、大学選手権でより優位なシードを勝ち取りたいと考えているという。そのためにも、春、夏Aチームはわずか1敗の帝京、昨季選手権決勝の相手・早稲田という、練習試合を含めて今季ここまで勝てていない難敵には必勝態勢で臨みたいという。
高野監督はインタビューでも「(伊藤が)チームに戻って来て、例えばいきなり早明戦に出すかといえば、それはチームのコンビネーションもあるし、そこまで頑張って来たメンバーもいる。準備のないまま伊藤を出すことでチームが悪い方向へ行くことだってあり得ることだと思います」と指摘している。伊藤不在の間は、3年生の萩井耀司(桐蔭学園)が司令塔としてチームに貢献していることも踏まえて、代表から戻っても即ゲームメンバー入りではなく、セレクションのプロセスを踏んだ上でメンバー選考の対象になると考えれば、帝京大戦より数週早くチームに合流するのが理想だ。
一方で、代表側の台所事情を見ると、同じSOとして代表で実績を積んできた李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)の復帰見通しが立たない秋のテストシリーズで、ここまで先発SOとして起用し続けてきた伊藤を使いたい思惑は間違いなくあるはずだ。今回合宿に参加するSOを見ると、伊藤の他はFB兼務のサム・グリーン(JR東日本グリーンウォリアーズ)と松永拓朗(東芝ブレイブルーパス)、そして参加を辞退する上ノ坊駿介(神戸S)に代わり武藤ゆらぎ(横浜キヤノンイーグルス)が選ばれるが、来年のワールドカップへ向けて、この顔ぶれでSOを回していくのかは流動的だ。
伊藤自身に目を向ければ、この秋に関しては、ここまでの夏のテストシリーズ同様に李の不在を補い、まだまだ不十分なテストラグビーの経験値を上げていくという観点では、またとないチャンスなのは間違いない。李が健在なら、伊藤のプレー時間も現状のように常時出場するような状態ではなかったはずだが、今は代表に参加し続ければプレータイムを飛躍的に伸ばすことが見込まれる。敵地ヨーロッパでイングランド(世界ランキング5位)やスコットランド(同6位)とのテストマッチを戦うことは、伊藤の成長のためにはまたとない好機だろう。
こんな状況を考えれば、今秋、伊藤が出来るだけ長くサクラのジャージーでプレーすることの価値は大きいのだが、高野監督が訴えるように、紫紺のジャージーファーストのセレクションが実現するのか。高野監督と明治大フィフティーン、そして司令塔・伊藤から目が離せない秋のラグビーシーズンが始まろうとしている。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)
![[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト](https://the-ans.jp/wp-content/themes/the-answer-pc-v2/common/img/logo_c1.png)










