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「自分はどうやったら負ける?」 弱さと向き合った大野将平、五輪連覇の土台にある10代での苦悩

自身の経験を踏まえて10代のアスリートにメッセージを送った【写真:増田美咲】
自身の経験を踏まえて10代のアスリートにメッセージを送った【写真:増田美咲】

英国で2年間の研修、現地で感じた多様性と日本柔道を説く必要性

《現在の大野さんは旭化成柔道部コーチを務める一方、全国各地に出向いて子供たちを指導する機会も多い。第一線を退いてからはJOCのスポーツ指導者海外研修制度を利用してイギリスに渡り、2年間に及ぶコーチング修行に励んだ。生涯スポーツの文化を肌で感じつつ、日本柔道の未来を考える日々でもある》

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 欧州では柔道の多様性を感じることができました。子どもから大人まで競技を楽しんで「痛みのない柔道」と言いますか、畳の上で別に白い歯を見せて笑ってもいい。そのうえ(トップレベルでは)実力もグッと上がっている欧州の柔道界から学べるところは、すごくあると思っています。日本は今、柔道が昔ほど盛んだと言えるような状況ではありません。日本から欧州へ指導者がどんどん行っていますし、逆輸入じゃないですけど、学んだものを持ち帰って活かすことができれば、いい循環が生まれるのではないでしょうか。

 ただ一方で、武道である日本の柔道の必要性を説いていくことも必要だなと感じています。社会で活躍する人づくりが柔道の究極の目的であることは先ほども述べました。今の時代だからこそ、柔道が「刺さる」ところがあるとも感じています。

 世界を見据えるこれからの選手たちに自分の培った経験を伝えていくことを含めて、自分の役割を考えながら柔の道を歩んでいきたいと思っています。

《柔道に明け暮れた10代が土台となって、輝かしい栄光をつかんだ大野さん。10代を振り返ってみた時に、もし何か後悔することがあったとすれば――》

 後悔というなら、講道学舎に入ったことでしょうね。もし、あれだけ厳しい毎日が待っている現実があると分かっていたら、「行きたい」とは絶対に言ってなかったと思います。現代はインターネットを使って簡単に調べられます。今なら自分なりに情報を集めているでしょうから、その世界に自ら飛び込もうとはしなかったでしょうね。

 ただ、何でもかんでも知ってしまうことはどうなのか、とも思うんです。例えば海外旅行だってそう。どこが人気のスポット、どこが人気のレストランなどと情報をすべてインプットできるので、事前に頭に入っている以上、感動しづらいところもあると思うんです。逆に言えば、知らないから想像を超えて感動する部分もある。

 何を申したいかと言うと、講道学舎のことをよく知らなかったから頑張れた。当たり前だと思って、やっていけた。想像を超えてくることに対しても、必死に食らいついていけた。いろんなことを知って、分かったつもりになっていたらできなかったかもしれません。あくまで私の経験ではありますが、若いうちに知りすぎてしまうよりは、知りすぎないほうが良かったなと思っています。

 後悔とは言いましたけど、講道学舎に入ったことで強くなり、人間としてすごく大切なことを学べました。子どもなりに未知の旅を頑張ってこれたから、今の自分があると思っています。

■大野 将平 / Shohei Ono

 1992年2月3日、山口県山口市生まれ。7歳で柔道を始めると、兄の背中を追って中学で上京し講道学舎に入る。厳しい指導の中で次第に頭角を現すと、高2のインターハイ男子73キロ級で優勝。天理大に進学後は国際大会でも結果を残し始め、2012年のグランドスラム東京大会で初優勝、13年世界選手権も制した。旭化成所属となって以降も15年世界選手権優勝など結果を残すと、16年リオデジャネイロ五輪に初出場。屈強な外国勢を相手に強く美しい柔道を披露し金メダルに輝いた。その後もトップに君臨し続けると、21年東京五輪で連覇を達成。23年2月に第一線から退くことを表明すると、英国への指導者研修を経て、現在は旭化成柔道部のコーチを務めながら、各地で柔道教室に参加するなど競技の普及に力を注いでいる。

(二宮 寿朗 / Toshio Ninomiya)

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二宮 寿朗

1972年生まれ、愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。2006年に退社後、「Number」編集部を経て独立した。サッカーをはじめ格闘技やボクシング、ラグビーなどを追い、インタビューでは取材対象者と信頼関係を築きながら内面に鋭く迫る。著書に『松田直樹を忘れない』(三栄書房)、『中村俊輔 サッカー覚書』(文藝春秋、共著)、『鉄人の思考法~1980年生まれ戦い続けるアスリート』(集英社)、『ベイスターズ再建録』(双葉社)などがある。

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