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歴史的連覇の南アフリカに日本ラグビーが学ぶこと 4年後のW杯で再び世界を驚かすためのヒント

国民が抱く夢や期待に応えようとする信念

 しかし、現実はそう容易ではない。制度の壁を越えて30年近くが経つが、生活の壁はまだこの国の大きな問題だ。教育格差などの影響もあり、かつての支配階級と被支配者の間には、未だに大きな格差が残り、分断が続く。その現実を踏まえて、コリシ主将はこう訴えながら戦い続けてきた。

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「私が生まれたところでは、今日ここに立つことなど夢にも思わなかった。でも、私には夢があります。家族をしっかりと支える。そして自分のコミュニティに恩返しをしたい。ぜひ南アフリカに来て、自分の目で確かめてほしい。一致団結すれば、スポーツだけじゃなく、人生でも、誰も私たちを止められないのです」

 多くの代表チームは、国民の楽しみ、満足感、誇りのために戦う。だが、この深緑のジャージーを着る選手に課せられるミッションには、国民の融和や統一、社会だけではなく経済、生活における断絶の克服も求められる。コリシ主将自身が「タウンシップ」という生活困窮者が多く暮らす地域に生まれ、家族の愛情も十分に受けられない環境で育つ境遇の中からチャンスを掴んだ若者の象徴でもある。

 コリシ主将に限ったことではない。様々な人種、社会背景から集められた選手たちは、この国屈指のアスリートであるのと同時に、この国が社会の分断を乗り越えて1つになり、本当の意味で様々なカラーがお互いを補い合いながら美しく輝く真のレインボーネイションに進化するための一助になろうという同じ思い、信念を持ち戦い続けた。国と国民が抱く夢や期待に応えようとする思いが、このチームの80分間自分たちを信じ、デュトイやデクラークが見せた無尽蔵の献身さを発揮し続ける力を与えたのは間違いない。

 優勝を花道に退任するジャック・ニーナバーHCも、ゲームのことと同等に母国のことを思い、発言している。

「南アフリカでは、6200万人の国民が1つになり、貧しい人は(有料パブリックビューイングの)入場料を寄付金で無料にして試合を観戦できるようにしています(多くの貧困層はテレビを保有していない)。皆が着られるように緑色のTシャツも用意して、彼らは応援してくれました。最後の3試合はすべて1点差の勝利でしたが、そういう人たちからもらった1つひとつのエネルギーを感じ、それが後押ししてくれたのです」

 これも、以前のコラムで書いたことだが、南アフリカの勝利で、やはり防御優位という世界の流れは証明されたと考えていいだろう。強固な防御の中で、いかに自分たちが優位なポジションを取り、スコアで上回るかというタイトな戦いは、決勝トーナメント全8試合中6試合が7点(1トライ1ゴール)差以内で終わっている試合結果からも分かる。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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