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歴史的連覇の南アフリカに日本ラグビーが学ぶこと 4年後のW杯で再び世界を驚かすためのヒント

ピッチ外に存在するチームが結束する背景

 グラウンド上での南アフリカの強さについて書いてきたが、100メートル×70メートルのピッチの外にも、彼らの強さは存在していた。

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 横浜に続きサンドニでもウェブエリス杯を頭上に掲げたシヤ・コリシ主将は、優勝会見で切々と訴えた。

「南アフリカ人ではない人には、この勝ちが私たちの国にとってどういう意味を持つのか理解できないでしょう。ただの試合ではありません。私たちの国は多くの困難を乗り越えてきた。私も、ここにいられることに感謝しています。南アフリカの人たちにありがとうと言いたいです。そして、このチームは南アフリカの皆さんが、何ができるのかを示しているのです。互いに協力すれば、どこにいても、どの分野でも、オフィスでもすべて可能なんです。私たちが示したことは、何ができるかなのです。このチームに感謝して、誇りに思います」

 祖国・南アフリカ共和国は、実験的な国家という側面を持つ。アパルトヘイト制度という憎悪と悲しみを生み出し続けた社会システムにより世界から孤立した過去を持つが、1994年に樹立された新しい政府は、制度の廃止とともに世界を驚かせる決断をした。

 アパルトヘイトを断固として否定する一方で、推進した官僚、警官、政治家、そして市民たちの責任を追及しない方針を打ち出したのだ。多くの謂れのない差別を受け、家族を失った市民にも、政府は忍耐と寛容を求めた。過ちを犯した多くの人に誤りを認めさせたうえで、それを許す。自分たちが受けた憤りと悲劇を、例え誰であっても再び同じ経験はさせない――こんな信念で新しい国は動き出した。

 その理念は、このチームがテストマッチを行うたびに示される。現在の国歌は、過去と違う歌であり、同じだ。讃美歌から抵抗の歌に転じた「神よアフリカに祝福を」の後に、多くの国民が2度と聞きたくないだろうアパルトヘイト時代の国歌「南アフリカの呼び声」が続く2つの歌が繋がったものだ。この国歌が歌われるたびに、南アフリカ人は確認する。過ちを許し、それを乗り越えてともに理想へ進む。その統合の象徴を南アフリカ代表スプリングボクスが担う。

 アパルトヘイト時代のラグビーは、差別の象徴のような白人のスポーツだった。新しい国家では否定的に捉えられる恐れもあったが、アパルトヘイト廃止で1995年大会の初出場と初開催がこの国にもたらされた時、ネルソン・マンデラ大統領はスプリングボクスの挑戦が新たな国家の象徴になると位置付けた。チームが戦い、勝ち進むことが国民統一の力になると信じ、彼らはその期待に優勝で応えた。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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