“海外行脚”で実際に学んだものは「多岐に渡りますが…」

　23年にスーパーラグビーチームを視察したのも、オールブラックス同様にオンシーズンでのチームの取り組みを知るためだったが、では、これまでの3シーズンに渡る“海外行脚”で何を求め、実際に学んだものは何だったのか。その言葉からは、森田のコーチとしての視点やスタンス、大切にしてきたものが窺い知れる。

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「多岐に渡りますが、例えば同じチームでも、2019年、20年、24年とチームの成熟具合によってやるべき事は変わるだろうし、国民性や選手の空気感、成熟度でも全く違うはずだと思います。今年ほとんどのタイトルを獲ったバースが、HC就任1年目と今でやっていることが違うでしょうし、違うべきです。ただ、そのタイミング、タイミングでコーチがどれくらいのプランをどれくらいの分量でチームに落とし込むか、落とし込むためにどんな取り組みをしているのかということを把握しておくことが大事だと思うんです。全く同じことがBL東京に合うとは思わないですが、自分たちの文化を理解して、自分たちはどこから来たのか、今どのレベルに居るのかを理解した上でやるべきことを考えた時に、参考になる具体例があると考えています」

　具体例として森田CCが挙げたのが、現在オールブラックスを率いるスコット・ロバートソンHCのクルセイダーズ時代の取り組み方だ。現役時代“レイザー（剃刀）”の異名を持ち、日本のリコー（現リコーブラックラムズ東京）でもプレー経験のあるロバートソンHCが率いていたクルセイダーズは、在任中（2017-23年）で7度（1位扱いを含む）のスーパーラグビー制覇を果たしている。

「実は彼はラグビーのポートフォリオ（引き出し、コーチとしての手法）というのはほとんど持っていなくて、どちらかというとコーチをコーディネートしている。コーチを上手くオーガナイズして、チームやチーム内の空気を作っていると思いました。彼の場合は、試合毎の1週間に上手くテーマを立てて、そこに言葉と映像を使いながら、試合へ向けた世界観を作っていくんです」

　森田CCの見たニュージーランド最高峰の指導者は、1人でチームを引っ張っていくよりも個々の優れたコーチの手腕を上手く引き出しながら強化を進めていくタイプだ。因みに、レイザーがクルセイダーズ、オールブラックスでも手離さないアシスタントコーチの1人がスコット・ハンセン。2019年ワールドカップで日本代表の躍進をディフェンス担当のアシスタントとして支えた名コーチを、いまでも腹心の部下として抱えている。そんな常勝軍団を率いたHCの手法を、BL東京のコーチング自体やコーチング体制にも役立てながら強化を続けてきた。

「チームはゲームに向けて、対戦相手がこうだから、今週の天気がこうだからという情報と、自分たちの今シーズンの中での成長具合と立ち位置はこうだから、おそらく今週末はこういうゲームになっていくだろうと想像考え、そこからミーティングで戦術とかディテールを落としていきます。選手がそのディテールを理解してグラウンドで実践していくわけですけれど、このディテールこそがその週のキーとなる部分でもあるので、共通認識を持って週末へと持っていかなければいけない。なので、ディテールがその週の世界観と紐付いていることはすごく大事なんです」

　ここまでは、多くの国内強豪も似たような作業を進めているだろう。そこに、森田CCの海外視察での学びも反映された拘りが加えられることで、BL東京として独自の試合へ向けたアプローチが見えてくる。

「年間を通した世界観と繋げることだけを毎回言っても、なんかボヤっとしちゃうんですね。ここが非常に重要で、今週の世界観、今週の対戦相手のために必要なものを選手に訴えていくときに、テーマというのはすごく大事だと思っています。だから、話すだけじゃなくて、それに映像を色々織り交ぜたりして選手にプレゼンしていくわけです。その世界観、テーマをしっかり選手に伝えることで、今週落とし込んでいるディテールが、ある言葉を聞くと浮かんできて、1週間の練習の中でも選手側からその言葉が出てきたり、その言葉とかディテールとかが練習に反映されるから、1週間の準備がより良く出来て、最後に試合を迎えた時にはそのマインドセットが生きる。そんな取り組みを毎週、1シーズンやっているんです。全く同じではないですけれど、レイザーがやっていた世界観の作り方のところはすごく上手で、とてもいい学びになりました」