「普通ならビビるところですよ」 陸上界の怪物・後藤大樹はなぜ17歳でアジアNo.1に迫れた…戦術も任せた洛南監督の証言

27年北京世界陸上の代表入りが有力に
そのスタンスでも47秒93と、五輪や世界陸上で決勝進出が可能なレベルの記録を後藤は出した。この記録はU20世界歴代3位で、もちろん高校記録である。2001年と2005年の世界陸上で銅メダルを獲得した為末が、1996年に出した前高校記録は49秒09。昨年まで不滅と思われていた記録を、今や1秒以上引き離した。
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そして後藤自身が喜んだのが、来年の世界陸上参加標準記録の48秒00を破ったこと。2021年以降のオリンピックと世界陸上は、標準記録突破者が少数になるように高いレベルに設定され、残りの出場者は世界ランキングで追加されるシステムになっている。国内の選考基準をクリアする必要があるが、代表入りに大きく近づいた。
「世界陸上標準記録は絶対に切ってやろうと思っていたので、そこはうれしい気持ちでいっぱいです。47秒台に入って日本記録(47秒89)も見えてきました。しばらくヨンパーはやりませんが、冬期練習のモチベーションが高まりました」
来年への準備という意味では、後藤と柴田監督はアジア大会直後にとりかかり始めた。10月4日のU20日本選手権(静岡・草薙総合運動場陸上競技場)200mにアジア大会から中5日で出場し、20秒40(+0.9)で優勝した。洛南高の先輩である桐生祥秀(現日本生命)が持っていた20秒41(+0.5)の高校歴代2位を上回り、高校生としてはサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ、当時城西大城西高)が2015年に出した20秒34(-0.4)に次ぐタイムで走ってみせた。
後藤はU20日本選手権後も日本選手権リレー(4×100mリレー)、国民スポーツ大会(300mハードル、高さ91.4cmで400mハードルと同じ)、U18競技大会(300mハードル、高さがU18規格の83.8cm)と、アジア大会から5週連続でレースに出場する。これは来年、5月から8月のインターハイ路線に複数種目で出場することに加え、5月後半のアジア選手権(中国・アモイ)、6月中旬の日本選手権、9月中旬の北京世界陸上と続くハードスケジュールを想定してのこと。
ちなみに来年の世界陸上代表選考は、後藤のように標準記録を突破している選手はアジア選手権か、日本選手権のどちらかで優勝すれば代表に内定する。だがアジア選手権は世界陸上と同じ中国開催でもあり、国際大会の経験を積むことが目的と後藤は位置付けている。
「高校生なので(中5日でも)回復可能だと思いました」と、柴田監督はU20日本選手権出場を決めた理由を説明する。「トップ選手が9月でシーズンオフにするのが当たり前の風潮に風穴を開けようか、という気持ちもありました。ケガに十分配慮すれば、10月の試合も活用できます。トップ選手は必ずしも、練習期間をとって試合に出場していくパターンができるとは限りません。連続する試合への耐性をどこかでつけておきたかった」
走り自体の柴田監督の評価は「可もなく不可もなく」というものだが、「200mのリズムで走れたこと、(強行日程でも)ケガをしなかったことが一番の収穫」だった。
400mハードルの1周48秒前後のスピードは後藤にとっては遅いリズム。ハードルがあるためリズムは取りやすいが、そのリズムが体に刻まれてしまうと後藤本来のスピードが生かせなくなる。銀メダルだったU20世界陸上(8月9日、米国オレゴン)から帰国後もアジア大会までの間に200mを走り、前述の20秒19(+3.1)というタイムを出していた。U20日本選手権も「400mハードルのリズムを一度消去して、200mに戻す」ことが出場の一番の目的だった。
後藤のスピードはアジア大会の前半の走りでも確認できたが、短距離のタイムが上がれば前半が今と同じスピードでも余力を持つことができる。ハードル間の歩数も現在は5台目まで13歩で6台目以降は15歩だが、スピードが上がれば今のストライドが楽になる。13歩を6台目、7台目と伸ばすことができるかもしれない。10月に出場する300mハードルのハードル間は400mハードルと同じ35mで、ハードルの設置台数は10台ではなく7台。「インターバルを全て13歩でトライする」(同監督)ことを予定している。
「10月の試合で今の後藤に足りないところも見えてくるでしょう。冬の間に色んなトレーニングを積んで、来年のチャレンジにつなげたいと思っています」
来年もまだ高校3年生。過大な期待は慎みたいが、後藤がどのくらいの記録を出せるのか、柴田監督に聞いてみた。
「わからないです。今年もこんなタイムが出るとは思っていませんでした。47秒5と言われても、(練習も400mハードルに直結するようなメニューはしないので)何を基準にすればいいのかわかりません」
後藤なら47秒5を目指せる、という声も聞こえてきたのだろう。だが後藤と柴田監督はそんな声にはおかまいなく、高校生としてやるべき練習をしてハードな27年シーズンに挑んでいく。
(寺田 辰朗 / Tatsuo Terada)
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