「普通ならビビるところですよ」 陸上界の怪物・後藤大樹はなぜ17歳でアジアNo.1に迫れた…戦術も任せた洛南監督の証言
愛知・名古屋アジア大会の陸上男子400mハードル決勝で、後藤大樹(洛南高2年)が日本歴代2位タイとなる47秒93をマークし、銀メダルを獲得した。U20世界歴代3位、日本記録まで0秒04に迫る驚異の走りだったが、本人は「大人の世界は広い」と悔しさを吐露。一方、客席から見守った柴田博之監督の評価は「後藤は何も失敗していません」。なぜ17歳にしてシニアの国際大会でアジアNo.1に迫れたのか。自ら判断させる育成、短距離スピードを高める独自のアプローチ、さらに来年の北京世界陸上を見据えたレース計画から、強さの背景をひも解く。(取材・文=寺田 辰朗)

「THE ANSWER 陸上PLUS|INSIGHT」 名古屋アジア大会
愛知・名古屋アジア大会の陸上男子400mハードル決勝で、後藤大樹(洛南高2年)が日本歴代2位タイとなる47秒93をマークし、銀メダルを獲得した。U20世界歴代3位、日本記録まで0秒04に迫る驚異の走りだったが、本人は「大人の世界は広い」と悔しさを吐露。一方、客席から見守った柴田博之監督の評価は「後藤は何も失敗していません」。なぜ17歳にしてシニアの国際大会でアジアNo.1に迫れたのか。自ら判断させる育成、短距離スピードを高める独自のアプローチ、さらに来年の北京世界陸上を見据えたレース計画から、強さの背景をひも解く。(取材・文=寺田 辰朗)
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「大人の世界は広い」
後藤大樹はレース後に何度も、この言葉を発していた。「47秒台を出しても勝てなかった」からだ。銀メダルの後藤のタイムは47秒93の日本歴代2位タイ。47秒台は日本記録の47秒89を持つ為末大ら、日本選手で過去3人しか出していない領域である。
大会前から「日本記録更新と金メダル」を目標に定めていた。予選の後藤は3組1位で、全組を通してトップの48秒60をマークした。46秒98のアジア記録を持つA・サンバ(カタール)が同じ予選3組で途中棄権し、格上の選手はいなくなった。
しかし8月に47秒56を出したB・ヘメイダ(カタール)が、自己記録では後藤を上回っていた。5月に48秒35をマークした黒川和樹(住友電工)も、前半のスピードを武器に金メダルを狙える選手。注目されていた後藤が予選トップタイムを出したことで期待が一気に高まったが、金メダルは簡単なことではなかった。
決勝では後藤が8台目(290m)でトップに立ち、最後の10台目(360m)でもリード。17歳が金メダル獲得か。そう思われたが10台目を越えてから、2つ外側のレーンのヘメイダにかわされてしまった。日本勢20年ぶりの金メダル獲得は、約1m差で逃して銀メダルという結果に。
レース後の後藤はうっすら涙を流していた。
「自己ベストが出たのでうれしいはずなんですが、得意の後半で負けてしまって、悔しい気持ちが自分の中にあるんだなって。それで涙が出てしまったんだと思います」
レース展開について質問されると、次のように答えた。
「(後半でリードを奪った)予選と同じプランで行きましたが、前半は気持ちが走りに出てしまい、どんどん前に行ってしまいました。高速レースになってしまったのは今大会の反省点でもあり…」
この後に続けた言葉は後ほど紹介するが、後藤は前半を速く走ってしまったことを敗因の1つと考えていた。実際、5台目(185m)の通過は、手元の計測では日本選手権の48秒09(U20日本記録、日本歴代4位)の時より0.2秒速かった。スタンドから教え子を見守った洛南高の柴田博之監督も「客観的に見れば前半、出力が高すぎました。そうしないとついて行けないレベルの大会です。そうなる可能性もあると思っていました」と分析した。
しかし柴田監督は「後藤は何も失敗していません」と、前半が敗因だったという見方はしていない。
「高校2年生が47秒93で走ったんです。(負けたという見方があるとすれば)高校2年生に何を期待しているんだ、と言いたいですね。高校生がアジア大会に勝つなんて、聞いたことがありません」
日本の高校生が勝ったことも1980年代まではあったが、アジア大会のレベルが上がるとそれはできなくなった。
客観的に見ても失敗レースではなかった。前半を日本選手権より0.2秒速く走り、フィニッシュタイムも0.16秒速くなった。後半で失速したわけではない。後藤自身も「高速レースになってしまったのは今大会の反省点でもあり…」に続けて、「興奮しながらも、良かった点でもあるかな、と思います。いっぱい、いっぱいまで出し切るベストのレースができました」と話した。
アジアの強豪選手を相手に冷静さを欠いた部分はあったかもしれないが、テンションの高さを47秒台につなげて見せた。さらに目標の1つだった、来年の北京世界陸上参加標準記録(48秒00)突破にも成功している。
高校2年生としては最高の結果を、パロマ瑞穂スタジアムのトラックに残した。
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