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「他のスポーツは日本国籍を持てば平等なのに…」 ラグビー界で賛否、導入される“日本人選手優遇”新規約の問題点を検証

ラグビー・リーグワンが5月13日にメディアブリーフィングを開き、2年後の2026-27年シーズンに導入される選手登録に関する「追加カテゴリ」を発表した。リーグ発足から導入された日本選手、外国籍選手の出場規定として導入されたカテゴリ制度だが、ラグビー関係者からは様々な疑問、意見がある中で、リーグ側も追加という形で修正を加えた。日本選手の出場機会、延いては雇用拡大にも繋がる点では歓迎出来る一方で、日本代表も支えてきた外国人選手たちに対する処遇や、チームの戦力確保、拮抗したリーグの構築など新たな議論も浮かび上がる。リーグ側、チーム関係者、そして当事者でもある選手の声から新規約の問題点、課題を検証する。(取材・文=吉田 宏)

リーグワンに2026-27年シーズンから新たな規定が導入される【写真:Getty Images】
リーグワンに2026-27年シーズンから新たな規定が導入される【写真:Getty Images】

リーグワン2026-27年シーズンからの新規約 ラグビーライター・吉田宏氏が問題点を指摘

 ラグビー・リーグワンが5月13日にメディアブリーフィングを開き、2年後の2026-27年シーズンに導入される選手登録に関する「追加カテゴリ」を発表した。リーグ発足から導入された日本選手、外国籍選手の出場規定として導入されたカテゴリ制度だが、ラグビー関係者からは様々な疑問、意見がある中で、リーグ側も追加という形で修正を加えた。日本選手の出場機会、延いては雇用拡大にも繋がる点では歓迎出来る一方で、日本代表も支えてきた外国人選手たちに対する処遇や、チームの戦力確保、拮抗したリーグの構築など新たな議論も浮かび上がる。リーグ側、チーム関係者、そして当事者でもある選手の声から新規約の問題点、課題を検証する。(取材・文=吉田 宏)

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 2シーズン後から導入される新規約。メディアブリーフィングで、リーグワン東海林一専務理事は、変更主旨をこう語った。

「このカテゴリの追加は、日本国内の小中学校年代を含む若年層の競技者が、より一層リーグワンでプレーすることを具体的な目標と捉え、競技への参加意欲を高め、国内の競技人口増加、日本ラグビー全体の普及、発展に寄与することを目指しています」

 コメントはリーグオフィシャルホームページにも載せられている。今回の「追加」は海外出身選手の出場枠に現行規定以上に制限を加えることで、日本選手のプレー時間、さらに雇用枠を確保するのが狙いだ。その先に見据えるのが、専務理事も唱えている国内の普及になる。2シーズン後に導入される新制度について検証するためには、先ず前提となる現行カテゴリ制度を確認しておこう。

「カテゴリ制」は2022年のリーグワン初年度から導入された。1試合における15人の出場メンバー、23人の登録メンバーの中で、日本人、外国人選手を何人起用出来るかという規約だが、主な目的は日本選手の出場枠確保と、過度な外国人選手依存を抑制することにある。

 別表にも記しているように、登録されているリーグワン全選手を代表歴などの条件でカテゴリA、B、Cに分け、それぞれの登録枠を定めている。最も出場、登録枠が大きいカテゴリAは、対象が日本代表資格を持つ選手のため、統括団体ワールドラグビー(WR)の代表規約に順じたレギュレーションでもある。WRの規約では、海外出身者も含めて、当該国(日本)の国籍取得者、同国で生まれた選手、両親祖父母のうち最低1人が同国出身、当該国のチームで60か月を継続して選手登録された選手に代表資格が与えられる。噛み砕いてカテゴリAを説明すると、日本代表経験者および代表資格を持つ選手に対する優遇策だ。

現行カテゴリ制度 試合出場枠 試合登録枠 チーム登録枠
A 日本代表/資格保有者 11名以上 17名以上 80%以上
B 日本代表資格獲得見込み 任意 任意 Cと合計10名以下
C 他国代表経験者/AB以外 3名以下 3名以下 3名以下
※外国籍選手のA資格取得には日本チームでの48か月以上の継続的な登録が条件

 リーグワンでは、今季から独自規約としてWRが設けた60か月という選手登録期間を48か月に短縮。海外出身者がカテゴリAと認定されるためのハードルが下がったことにより、リーグ参入チームは積極的に留学生ら48か月の登録をクリア、ないしは近くクリアするであろう選手の採用を増やしている。2年後のカテゴリ制変更は既にリーグ内では実施の方向性が固まっていたが、それを視野に入れつつも、フィジカル面では日本選手に勝る素材を積極的に獲得することで戦力増強を諮ってきたことが、現在進んでいる実力均衡化の一因なのは間違いない。有望な日本選手のリクルート状況を見ると、上位、人気チーム入りを希望する選手が多いのに対して、下位チームは獲得に苦戦を強いられる傾向がある。そのため、下位チームはカテゴリAの留学生を積極的に獲得することで、ゲームのフィジカリティーを高め、チーム強化にも役立てている。

 だがその一方で、多くの留学生選手がカテゴリAとして日本選手と同等にプレー出来る状況は、日本で生まれ育った選手のゲーム出場時間、そしてリーグワンへの雇用を減らしているという危惧が高まっている。花園常連の高校チームを長らく率いてきたある指導者は「昔は中学のいい選手を『ウチで花園に出れば、いい大学、いい社会人チーム、その先には日本代表のチャンスもある』と誘ってきたが、いまはそんな話は出来なくなりつつある。現状は、子供たちがリーグワンでプレーしたい、日本代表になりたいという夢を奪いかねない」と憤る。同様に、教え子たちの進路に危機感と不満を抱えている声は、有望選手を多く輩出する強豪高校やOBにリーグワン選手を抱える大学の指導者からも取材現場で聞いている。

 留学生選手の場合、その多くがリーグワンチームとプロ契約を交わしている。そのためチームにとっては、短期的には若干高額のサラリーを支払ったとしても、社員として日本選手を雇用するのに比べると生涯賃金で見ればコストパフォーマンスはいい。だが、そんなチーム側ですら、日本選手のプレー時間、雇用を確保することの重要性を問う声はかなり強い。日本の小中高生がリーグワンに憧れる夢を持てなければ、将来的には国内の競技人口、ファン人口も失われるという危機感があるからだ。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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