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「ボクシングが好きだから」 井上尚弥は自ら退路を断つ、試練だらけの5か月を支えた自律心

ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が24日、東京・有明アリーナでWBO11位キム・イェジュン(韓国)に4回2分25秒KO勝ちし、世界戦通算24勝の現役単独最多(歴代9位タイ)記録を打ち立てた。世界2位となる3度目の4団体防衛に成功。試合数が少なく気持ちの維持が難しい競技で、なぜ自分を追い込み続けられるのか。興行延期、対戦相手変更の試練だらけだった興行を純粋な心持ちで乗り越えてきた。戦績は31歳の井上が29勝(26KO)、32歳のキムは21勝(13KO)3敗2分。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

試合後、満員の観衆を前に笑顔の井上尚弥【写真:中戸川知世】
試合後、満員の観衆を前に笑顔の井上尚弥【写真:中戸川知世】

井上尚弥が4団体防衛成功

 ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が24日、東京・有明アリーナでWBO11位キム・イェジュン(韓国)に4回2分25秒KO勝ちし、世界戦通算24勝の現役単独最多(歴代9位タイ)記録を打ち立てた。世界2位となる3度目の4団体防衛に成功。試合数が少なく気持ちの維持が難しい競技で、なぜ自分を追い込み続けられるのか。興行延期、対戦相手変更の試練だらけだった興行を純粋な心持ちで乗り越えてきた。戦績は31歳の井上が29勝(26KO)、32歳のキムは21勝(13KO)3敗2分。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 リングから見渡すと、予想外の景色が広がっていた。

「今日、どうなるのか。凄く不安の中、リングに上がった」

 空席を覚悟したアリーナは1万5000人で満員。「凄く嬉しい」。後悔はさせない。ド派手なKOを届けた。「映像はざっと見た程度」の突然現れた挑戦者。初回から距離とパンチの軌道を確認し、珍しく2回に被弾した。それでも一方的な展開をつくり、破壊的な右拳が再三炸裂。鈍い音を立てるたびにどよめきに包まれた。

 決着は4回、左フックを効かせて滅多打ち。最後はワンツーでぶっ倒し、10カウントを鳴らした。真っ白なグラブは返り血に染まった。

「皆さんにこうして会場に足を運んでいただいて、僕がここに立てているとつくづく思いました」

 試練続きの調整期間。モンスターの相手はモンスター自身だった。

 年に2、3回しか試合がないプロボクシング。他競技と比べて極端に少なく、長期間の気持ちの維持が難しい。地道なロードワークとジム練習、過酷な減量、命を懸ける恐怖。常人には理解しがたい試練を乗り越えなければ、リングに上がれない。

 特に井上は全てをやり尽くし、「完璧」に仕上げてゴングを待つ。強い心が不可欠だ。昨年5月のルイス・ネリ戦はそれが勝手に湧き上がった。「東京ドームで行われるタイソン以来の試合。凄くモチベーションが高い。なんといっても相手はネリ」。強敵を歓迎する目はギラついていた。

 9月の相手はTJ・ドヘニー(アイルランド)。海外メディアには「物足りない相手」と指摘された。「ネリ戦の自分を超えることがテーマ」。当時の練習量を基準に据え、自分に鞭を打った。蓋を開ければ、強打が売りだった挑戦者は消極的な戦い方。「そういうスタイルになるのは仕方ない」と受け止めながら嘆いた。

「自分がどう倒すか(という見方)にしかならない。ただ日本に来て、高いファイトマネーを受け取って、倒されないで終わろうという考えであれば寂しい。自分はやっていてつまらない」

 本来ならどの相手も世界トップレベルのはずだが、井上を前にすると格下に映ってしまう。

「ボクシングは相手があってこそ、盛り上がるかどうかのスポーツ。相手が塩(試合)に徹したらそりゃそうなりますよ」

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