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日本ラグビーは「独特な世界」 社員選手かプロ転向か、揺れる若手選手のキャリア選択

関係者が感じる企業スポーツからの変容

 あるチームのGMも最近のプロ希望の日本人選手については、このように指摘する。

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「プロ希望の日本の選手については、エージェントと契約してチームと交渉をしてくるケースが多い。ウチのチームの事例だと、個人的には『(エージェントが)このレベルの選手をプロへ引っ張っていいのか?』という気持ちはあります。ウチでは代表クラスじゃないとプロへの切り替えは難しい。なので、移籍も活発化しています。この傾向は大学生もそうだし、リーグワンのスタンダードクラスの選手も同様です。チームの中には、プロ契約を結んでいる仲間の選手を引き合いにして『話をさせてほしい』『プロ化はできるのか』と興味を持つ選手が多いですね」

 このGMが語るように、代表未経験や代表に定着する前段階のレベルの選手を社員からプロへ切り替えることに難色を示すチームがある一方で、そのような“予備軍”レベルの選手を、プロ契約でも獲りたいというところもある。あるチームの採用担当者は「社員選手に『君なら1000万、2000万はもらえる』とプロ転向や移籍を勧め、自分がエージェントを受け持とうとするケースもある」とエージェント側への不満を語っている。その一方で、前出のGMは選手の意識の変化、エージェントの介在だけではなく、自分たち自身、つまり「企業スポーツ」という特異な環境の変容も感じている。指摘していた“帰属意識”の薄弱化は、選手やエージェントの責任だけではないという。

「今、リモートワールドが進んできて、各チームの親会社との乖離が少しずつ起きていると感じています。我々チーム関係者は、社員選手にしっかり仕事をやらせると話しながらも、このリモートの環境のなかで、仕事にやりがいを感じない選手もいると思います。もちろん、時代の流れもあります。数年前と比べても、社員選手は仕事に満足していないのではないか。今はユーチューバーとか様々な働き方がある時代です。個人ですぐに会社を作れるような社会になってきている。同時に、会社内の制度も厳しくなってきていて、昇格・昇給が難しくなっています。昔のように、経営層まで入り込めるような社員選手は難しくなってきています。だから企業は分社化するなどの工夫もしてきています。このような状況が選手雇用や契約という部分で、ガバナンスが効いていない状況を招いているのではないか」

 もちろん、選手が自分の求める条件、環境でプレーしたいと考えるのは当然のことだろう。レベルアップのためにプロになりたいという思いを選手が持つことは、もちろん正当な考え方だ。だが、エージェントの小林とチームGMの双方が指摘する通り、果たして能力的に見合う選手なのかというレベルの選手までが、数多くプロ転向を希望していることが懸念材料だ。もちろんこの懸念の中には、能力だけではなく、プロとして生きていく上で必要な社会性や常識をどこまで身につけているのかという問題もある。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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