“42cmの戸惑い”は「速さ」の可能性 リレー侍、お家芸アンダーから25年ぶりオーバーハンドパス挑戦
今秋の名古屋アジア大会で2大会ぶり金メダルを目指す陸上男子400メートルリレー日本代表が11日、都内で合宿を公開した。バトン練習では25年ぶりにオーバーハンドパスを試した。日本は2001年以降、アンダーハンドパスをお家芸として貫いてきたが、進化への新たなオプションとなるかを探っていく。

陸上男子400メートルリレー合宿公開
今秋の名古屋アジア大会で2大会ぶり金メダルを目指す陸上男子400メートルリレー日本代表が11日、都内で合宿を公開した。バトン練習では25年ぶりにオーバーハンドパスを試した。日本は2001年以降、アンダーハンドパスをお家芸として貫いてきたが、進化への新たなオプションとなるかを探っていく。
“42センチの戸惑い”が、再び世界でメダルをつかむための伸びしろだった。3走桐生祥秀(日本生命)、4走小池祐貴(住友電工)を想定したオーバーハンドパスでの初練習。桐生の「はい!」の声で、飛び出した小池の手にバトンは収まらなかった。オーバーハンドパスは、桐生が洛南高(京都)以来、小池が人生初だった。
オーバーハンドパスは、次走者が腕を上げて走るため加速しにくいが、両者が腕を高く伸ばすことで「利得距離」(腕を伸ばした分だけ走らずに済む距離)を長く取れるメリットがある。
感覚も景色も、まるで今までと違った。桐生→小池のバトンパスの場合、従来のアンダーハンドでは29.5が基本だった足長(マーク)は、オーバーハンドでは31に伸びた。つまりバトンパスで受け手が始動するタイミングを示すマークまでの距離がスパイク約1.5足分、約42センチ長くなった。
桐生は「まだ距離感とかは難しい。やっぱりアンダーで慣れている。(受け手も)アンダーより(腕を)上げている感覚があっても、実際に映像でみると上がっていなかったりする」と修正点を挙げた。小池は「(最初は)戸惑いが……。本当にちょっとした距離なんですけど、『声遠くね?』ってなるんですよね。減速しないと絶対に届かないぐらいの声の遠さに聞こえた」と不慣れなバトンパスを振り返った。
ただ、その未知の「遠さ」は、走る距離の「短さ」であり、同時に「速さ」の可能性でもある。慣れによって感覚を磨ければ、タイム向上につながる感触がある。小池は「もともと、どこかのタイミングで、オーバーにしたらどうなるのか、やってみるのも長い目で見てプラスになると思っていた。やっぱり利得距離があるので、バッチリはまったら間違いなくオーバーの方が速いですよね」と期待を口にした。桐生も「飯塚さんとか、サニブラウンとか、柳田君とか手が長い選手が入ってくると、より変わってくると思う」と特にリーチの長い選手ほど、さらなるタイム短縮につながると見る。

01年から日本は走るフォームに近い形で受け渡しできるアンダーハンドパスを導入し、お家芸として極めてきた。まさに四半世紀ぶりとなるオーバーハンドパスの挑戦について、信岡ヘッドコーチは「方向転換ではなく、あくまで(可能性を)探る。日本にオーバーのデータがない。絶対にアンダーがベストなのか。本当に日本にとって、一番いい形は何なのか、日本にしかできないバトンパスを探っていきたい。最終的に(28年)ロサンゼルス五輪でアンダーハンドでやるのも、可能性としてはある」と説明。あくまで新たな選択肢を探るテストの位置づけであることを強調した。
日本は08年北京五輪、16年リオデジャネイロ五輪と銀メダルを獲得した。世界選手権でも17年ロンドン大会、19年ドーハ大会と2大会連続で銅メダルに輝いた。しかし、21年東京五輪以降は、世界大会のメダルから遠ざかる。
リレー合宿には桐生、小池、多田、小室の男子400メートルリレー代表メンバーに加え、日本選手権男子200メートルで2位だった林が急遽、参加。日本選手権男子200メートルで日本歴代2位となる20秒07を出した水久保はコンディション不良で不参加となった。リレー侍は、次戦18日のダイヤモンド・リーグ・ロンドン大会に出場する。27年世界選手権北京大会の出場権を得るため、今季ベスト38秒01の更新を目指す。1走から多田、小室、桐生、小池の布陣で挑む見通しだ。
男子400メートルリレーは各国がより力を注ぐようになり、100分の1秒も大きな意味を持つ。決して慣れ親しんだお家芸アンダーハンドパスを捨てるわけではない。いつでも戻れる土台と経験があるからこそ、世界と再び渡り合うべく、新たな可能性を追い求める。
■アンダーハンドパス
次走者は腰付近で手のひらを下に向けて構え、前走者が下からバトンを渡す技術。走るフォームに近い形で受け渡しするため次走者が加速しやすい。2人の距離が近く、バトンを落とすリスクが少ない。一方「利得距離」が短く、上体が立つフォームの選手は、渡す時に目線を下げる必要があり、次走者の手を確認しにくい。慣れれば確実性は高いが、不慣れだと難しいと感じる選手もいる。
■オーバーハンドパス
次走者は後ろに手のひらを向けて腕を伸ばし、前走者が前に押し出すようにしてバトンを渡す技術。両者が腕を高く伸ばす分、「利得距離」を稼げる利点がある。ただ次走者は後方に腕を上げて走るため加速しにくく、またスタートを切るタイミングに精度が求められる部分もある。
(THE ANSWER編集部・上田 悠太 / Yuta Ueda)
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