女性だからと特別扱いされない競技 車いすラグビー倉橋香衣のジェンダー平等への想い
スポーツにおけるジェンダー平等に「正直、難しい問題だな、と」
チャーミングな笑顔が印象的な倉橋は昨年、大きく感動する体験をしたという。それがパラリンピック選手村での生活だ。世界各国からいろいろな障害を持つアスリートが集まった選手村では、障害を持つ人がマジョリティー(多数派)で障害のない人がマイノリティー(少数派)。初めて見る光景にうれしさが沸いてきた。
「選手村でいろいろな国のいろいろな障害を持つ人を見て、本当にみんな一人ひとりが生き生き、そしてキラキラしていてかっこいい。堂々と生きているんですよね。私も隠れながら生きているつもりはないですが、『もっと楽しもう、もっと自分自身のことを認めよう』と感動しました。障害の種類や程度、性別、国、それぞれ違う人がたくさんいて、本当にみんなかっこいいと思ったことが印象に残っています」
生まれ育った環境や文化が変わると、それぞれが持つ発想力も変わってくる。「足がなければ車いす、杖、義足を使うイメージが私の中にはありました」という倉橋は、選手村で何度も驚きのシーンに遭遇した。
「車いすだけではなく、スケートボードやキックボードに乗る人もいて、自分たちがそれぞれ生活しやすい方法を見つけているんだろうな、と。両脚の長さが違う人が短い方の脚をキックボードのような乗り物に乗せていたり、スケートボードに乗る人は手で漕いでいたり。それで勢いよく走り回る姿を見たら、移動できれば手段は何でもいいんだと気付かされました。そういう姿っていいなって思いますね」
こういった新たな気付きや刺激を得られたのも、車いすラグビーと出会ったから。何よりも女性だからと特別扱いされることなく、一人の選手としてチームに役立つプレーが求められ、男女の差なく勝利の喜びを分かち合えることがうれしい。
「今回の取材で、スポーツにおけるジェンダー平等というテーマをいただいた時は、正直難しい問題だなという印象を持ちました。でも、私にとっても考えるいいきっかけになりました。車いすラグビーは性別に関係なく、そもそも障害の程度、できることできないこと、いろいろな違いがある人が集まっている。それは15人制のラグビーも同じで、体の大きい人や小さい人がいる中で、それぞれに役割があります。他のスポーツでも日常の社会でも、それぞれに持つ違いを認め合って、一人の人として接することができれば、みんなが過ごしやすい環境になるような気がします」
東京パラリンピックの開催を受けて、学校を訪問して子どもたちの前で講演をする機会が増えたという。かつては教師を目指していた倉橋は、どんな想いを持って子どもたちに語りかけているのだろう。
「やっぱり一人でも多くの人に車いすラグビーの魅力を知ってほしいと思っています。いいプレーが生まれるのは選手がお互い認め合っているから、というのが車いすラグビーの特徴。これは日常生活でも家庭でも変わらないことなんだよ、というのが少しでも伝わればいいなと思いながら話をしています」