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5歳で死別、父はW杯3大会の怪物FW 愛された「万吉」のDNAとラグビー人生…ただ一つ、真逆だった才能――東海大・渡邊拓斗

「万吉」の愛称で愛された泰憲さんは規格外のパワーで活躍した【写真:東芝ブレイブルーパス東京提供】
「万吉」の愛称で愛された泰憲さんは規格外のパワーで活躍した【写真:東芝ブレイブルーパス東京提供】

不慮の事故で亡くなった父「記憶は断片的で…」

 “出来事”が起きたのは2010年4月3日。釜澤にとっても東芝のチームメート、同じFW第2、3列で戦ってきた渡邊泰憲が、JR鎌倉駅での不慮の事故で亡くなった。引退からわずか1年。社業に戻り本格的に働き始めた矢先、35歳というあまりにも早すぎる別れだった。記者としての取材と同時に、日本体育大ラグビー部時代から親交のあった選手の急死に葬儀にも参列したが、釜澤はじめ多くの部員たちの言葉からは、残された家族たちを自分たちが支えていくという強い思いが感じられた。釜澤は「年に1、2回会うくらい」と何気なく語ったが、事ある毎に家族ぐるみで交流を続け、拓斗からも「釜(カマ)さん」と呼ばれる間柄だ。今でも、東海大で拓斗が試合メンバーに選ばれた時にはスマホにメッセージが送られてくる。

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「拓斗が高校2年の時だったかな。『釜さん、相談がある』と連絡してきたんです。『ラグビーをちゃんとやりたいです』とね。で、僕の母校の大東大はどうだと言ったら、アイツはダメだと。東海大に行きたいと言う。父親からDNAを受け継いだのかは分からない。でも体は大きくて、その頃でサイズは僕とも変わらなかった。東海大の木村監督も、親父と同じ日体大OBだし、見学したいと連絡を取ったんです」

 リーチマイケルら多くの教え子をBL東京に送り込んだ木村監督も、釜澤から相談を受けた当時をこう振り返る。

「東芝というチームも長い付き合いはあったし、(泰憲の)葬儀にも出ましたが、あの時のあの小さな子が、こんなに成長して東海大でラグビーがしたいと訪ねてきた。嬉しかったですね。なんとかウチで育てられればという思いでした」

 拓斗自身に父親の記憶は、多くは残っていない。

「亡くなったのは僕が幼稚園の年長の頃です。物心つく前くらいなので、記憶は断片的ではっきり覚えていない」

 別れは5歳の春。人が亡くなることを、まだはっきりとは理解出来ていなかった。

「当時は、ああ居なくなったんだくらいの認識でした。でも、亡くなったと分かる歳になっても、別にどうかということは無くて、父がちゃんとラグビーを続けてきたと理解したのも中学生くらいだった」

 本人はそう語ったが、亡き父はどんなラグビープレーヤーだったのか。

 一言で表現すれば「愛されキャラ」。渡邊泰憲はそんな選手であり、人間だった。生前に関係者から「渡邊」「泰憲」と言われるのを聞いた記憶はない。誰もが親しみを込めて「万吉(まんきち)」と呼んだ。由来は、自己申告の“そっくりさん”である俳優・布施博が、当時のテレビドラマで演じていた役名だ。生前の本人は「似てるでしょ」とおどけて話していたが、無理すれば布施博の容貌ではあったものの、その三枚目風の名前と本人の陽気なキャラが上手く合っていた。

 出会いは“衝撃的”だった。万吉が日本体育大学3年生だったシーズン。当時主将だった中原正義の取材に、横浜市の同大を訪れた時だった。中原主将が寮の自室で取材に応じてくれたが、強豪・佐賀工から日体大に進学して将来を嘱望されていたリーダーが、部屋のベッドの中の大男を引きずり出してきて、こう紹介してくれた。

「コイツすごいんですよ。大物ですから。おい、万吉起きろ、起きろ!」

 冬眠していた熊のように、寝ぼけ眼でベッドからのそのそと這い出てきたのが万吉だった。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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