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「ラグビーをさせたくない空気」に強豪校も危機感 中学年代で競技人口が減る要因とは

一部の大都市や強豪校に有望な選手が集中

 花園に27大会連続29度目の出場を果たした仙台育英を率いるニールソン武蓮傳(ぶれんでん)監督も、佐賀工のような中学生を対象にしたアカデミーの実現を考えている。チームは1回戦で東海大静岡翔洋に敗れたが、ニュージーランドから同校に留学して母校の監督として2シーズン目の若き指導者は「なかなか実現には難しい部分もあるが、仙台育英だけではなく宮城県の選手を増やし、育成するためには、可能なら来シーズンからでも取り組みたい」と意欲的だ。

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 しかし、どの指導者も優先するのは自校の強化だ。中学生の育成まで、どこまで時間をかけることができるかは、状況により大きく変わるだろう。佐賀工のように手厚いOBらの応援があればいいが、監督1人では限界がある。だからこそ、人員や資金などで協会側のサポートが重要になるはずだ。

 佐賀工に話は戻るが、辛うじて試合ができる人数をかき集めて1回戦を戦ったチームに比べれば、恵まれた環境かもしれない。だが、大都市でもない地域で公立高校のチームを全国レベルに鍛える枝吉監督は、競技人口と同時に懸念する問題を指摘する。

「今の子供たちは多様性を重視した社会で生きています。でも、それが強いところにみんなが行きたいと思う選択肢でもあるのが現実です。だから、やはり強豪校と言われるチームや大都市に、選手がすごく寄っているんじゃないかと感じています。この状況だと、なかなか以前のように、いろいろな高校にいい選手がいる時代にはならないと思います。このような一極集中のような現状を、どう考えていくのかも重要です」

 ある高校指導者の言葉を思い出す。高校ラグビー界の強化のピラミッドが、少子化や部員数、チーム数の縮小のなかで、あるべき正三角形や、底辺が長い幅広の三角形から、急速に頂点の角度が小さい、か細く尖った三角形になってきていると指摘していたのだ。あくまでもこの指導者の個人的な意見として聞いたのだが、枝吉監督の懸念も同じものだ。もし、このような指摘がこれから進んでいくとしたら、高校ラグビーという日本ラグビーを支える、欠くことのできない大きな柱が、先細りの末にどこかでポキリと折れてしまうことにもなりかねない不安もある。

 佐賀工同様に優勝候補の一角を担う國學院栃木。今回は3回戦で強豪・東海大大阪仰星に7-22で敗れて涙を呑んだが、昨年度は花園決勝まで勝ち進んだ強豪を35シーズン率いてきた吉岡肇監督も、普及、部員数の問題を深刻に受け止めている。

「心配なのは、県内で長らくライバルとして戦っている佐野高校が、部員が1人という現実です。練習をどうしてやっていくのかと、他校ながら気になる状態です。栃木県内では國學院栃木だけが部員が増えているけれど、他人事ではないですね。でも、個々のチームができることは、結局チームを強化する努力であり、魅力あるチーム作りをすることだと思います。単純に思うのは、楽しそうだとか、格好いい、女の子にモテる、そういうことってすごく重要で、だから野球でも坊主頭を廃止したりしている。痛い練習、苦しい練習、怖い監督、先輩の上下関係みたいなことをやめていくべきでしょう」

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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