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井上尚弥は「Sバンタム級こそベスト」 元世界王者が見た“階級の壁”を超えて得た強さ

井上のパワーアップに衝撃を受けたナルバエス戦

 筆者自身は現役時代、ずっとライトフライ級を主戦場にして、同じ階級で戦ってきた。多い時で10キロ近くの減量を強いられたが、それでも階級を上げなかったのは自分のスタイルを変えなければ勝てなくなるからだ。

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 1つ階級を上げるだけで相手の体格が大きくなり、自分のパンチが効かなくなる。筆者は間合いを活かして戦うスタイルだったが、距離感も変わってくるため前に出ないと通じなくなる。また階級の上の選手と戦って一番感じたのは、近い距離での圧力だろう。体格の大きい選手と戦うと、プレッシャーが強くなるため体力を消耗する。相手と揉み合いになった時に押し返すフィジカルも必要になってくる。

 井上の場合は階級を上げるにつれ、パワーを増している。ライトフライ級の当時もパワーはあったが、手数で倒すタイプだった。一発で倒すようになったのは、スーパーフライ級(52.16キロ以下)に階級を上げてからだ。

 印象に残っているのは、階級を上げた直後の試合。11回の王座防衛記録を持つ無敵の王者オマール・ナルバエス(アルゼンチン)との世界戦だ。試合前は絶対王者との対戦、しかも井上は2階級上げてから初の試合ということもあり、不利だとの予想が多かった。しかし、4度のダウンを奪い、わずか2ラウンドでKO勝利を収めた。この試合を機に井上尚弥の名は、世界に知れ渡った。その後もスーパーフライ級では8勝(7KO)、バンタム級でも9勝(8KO)と高いKO率を誇り、名だたるボクサーたちをマットに沈めてきた。

 バトラー戦で最高のパフォーマンスを発揮した井上だが、バンタム級での減量にも限界がきていたようだ。前日計量では普段使わないデジタル体重計の影響を受け、わずか30グラムではあるがオーバーしてしまった。すぐに体重を落としクリアしたが、井上は苦笑いを浮かべていた。試合後にも「バンタム級のウエイトが楽ではないなかで、ベストを尽くした」と話していた。6月のドネア戦後には、バトラーとの統一戦が決まらなければ階級を上げる話も出ていた。その頃から、すでに苦しかったのだろう。

 ボクサーは試合に向けて100グラム単位で体重を管理している。並行してトレーニングで体を作るため、減量はより苦しいものとなる。井上も減量苦のなかバンタム級に留まり続け、万全の状態に仕上げるだけでも苦労しただろう。それでもファンの期待を裏切らず、最高の勝利を収めたのはさすがの一言に尽きる。

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木村 悠

1983年生まれ。大学卒業後の2006年にプロデビューし、商社に勤めながら戦う異色の「商社マンボクサー」として注目を集める。2014年に日本ライトフライ級王座を獲得すると、2015年11月には世界初挑戦で第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオンとなった。2016年の現役引退後は、株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動、社員研修、ダイエット事業など多方面で活躍。2019年から『オンラインジム』をオープンすると、2021年7月には初の著書『ザ・ラストダイエット』(集英社)を上梓した。

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