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「結婚も出産もしたいけど…」 パリ五輪参加の日本人女性レフェリー、笛を吹く裏にあった人生の選択

今夏フランス・パリで開催された五輪は、世界のトップアスリートが集結する4年に一度の大舞台だ。各競技に日々全力で取り組む選手にとっては、今も昔も目標であり憧れの場所となっているが、そんな世界最高峰の大会に日本から試合を支える裏方として参加した3人の女性審判員がいた。国際審判員として実績を積み上げてきたバレーボールの明井寿枝さん、ホッケーの山田恵美さんは、ともに2021年東京五輪に続く2度目の参加。7人制ラグビー女子日本代表として16年リオデジャネイロ五輪に出場した桑井亜乃さんは、引退からわずか3年で選手・レフェリーとして五輪の舞台に立つというラグビー史上初の快挙を達成した。

競技の垣根を越えて語り合った審判員の3人。山田恵美さん(左)と桑井亜乃さん(右)、明井寿枝さんはオンラインで参加した【写真:近藤俊哉】
競技の垣根を越えて語り合った審判員の3人。山田恵美さん(左)と桑井亜乃さん(右)、明井寿枝さんはオンラインで参加した【写真:近藤俊哉】

パリ五輪出場「女性レフェリー座談会」後編

 今夏フランス・パリで開催された五輪は、世界のトップアスリートが集結する4年に一度の大舞台だ。各競技に日々全力で取り組む選手にとっては、今も昔も目標であり憧れの場所となっているが、そんな世界最高峰の大会に日本から試合を支える裏方として参加した3人の女性審判員がいた。国際審判員として実績を積み上げてきたバレーボールの明井寿枝さん、ホッケーの山田恵美さんは、ともに2021年東京五輪に続く2度目の参加。7人制ラグビー女子日本代表として16年リオデジャネイロ五輪に出場した桑井亜乃さんは、引退からわずか3年で選手・レフェリーとして五輪の舞台に立つというラグビー史上初の快挙を達成した。

 審判員としてパリ五輪の試合を裁いた裏には、どのような想いや歩んできた道のりがあったのか。競技の垣根を越えて実現した、3人の女性審判員による座談会。後編では、年齢とともに女性のライフステージが変化するなかで活動を続けていく難しさや、男子の試合を裁く意義、試合中のジェスチャーへのこだわりなど審判談議に花を咲かせた。(取材・構成=長島 恭子、取材協力=一般社団法人日本トップリーグ連携機構)

 ◇ ◇ ◇

――明井さん、山田さんは長年、仕事を続けながら審判員を務められています。ライフステージの変化に合わせたキャリア形成の難しさを感じた経験はありますか?

明井寿枝さん(以下、明井)「私は教員という仕事柄、比較的審判員を続けやすい環境であること、また職場の理解も得られたので、山田さんや桑井さんのように転職をすることもなく(※前編を参照)活動を続けられています。

 でも、誰もが人生を送るうえで、『ここは勝負をかけなきゃいけない』というタイミングがあると思います。そのタイミングによっては、女性として高いと感じてしまうハードルがあるのだなと、いろいろな方々を見てきて感じます」

山田恵美さん(以下、山田)「そうですね、東京大会を目指すと決めた当時、私は結婚して子供が1人いました。レフェリーの活動に力を入れるためには転職も必要でしたし、『今は2人目の子どもは産めない』と思いました。やはり本気でオリンピックを目指すのであれば、自分のライフプランを考えたうえでないと難しい。特に出産を考える場合、切り離せないと思います」

桑井亜乃さん(以下、桑井)「私も35歳になり、結婚や出産は今、考えどころだと思っています。今回、『3年で絶対オリンピックに行く』と決めてプランニングをしましたが、いつまでにこの試合を吹きたい、この大会のレフェリーに選ばれないといけない、この期間は海外で挑戦したいなど、とにかくクリアしなければいけないことが山積みでした。

 私も結婚したいし、出産もしたいけど、3年しかないと考えたら、私生活にかける時間の余裕は全くなかったですね。むしろ自分からどんどん行動を起こし、レフェリーとしての実績を積んでいかなければ、オリンピックにはたどり着けませんでした」

――国際審判員として活躍されるなか、性差を感じることはありますか?

山田「ホッケー界は今、審判員もジェンダーレスの流れにあります。例えば、今までは男性審判員が男子の試合を、女性審判員が女子の試合を吹いていましたが、今回のパリ五輪では女性の審判員が男子の試合を担当することもありました。

 ただ、大会の審判員は元々、性別に関係なく人数の枠が決まっています。ジェンダーレスが進むと考えた時、正直、女性の方が選ばれるハードルは上がっていくのではないか、と心配される部分もあります。状況判断や選手の意図を読む力などは、決して女性が劣っているとは思いません。しかし、一般的に体力面で女性は男性に敵わない部分があります。となると、やはり自分のプラスの部分を伸ばしていくしかないのかな、と。逆を言えば大会審判員を選ぶ側も、審判員の個性を認めたうえで、判断する力が大事になってくると考えています。

 審判員のジェンダーレス化は今まさに過渡期だと思うのですが、皆さん、どうですか?」

桑井「ラグビーはそもそも『男のスポーツ』という概念があって。私は選手時代、『え、女性がラグビーやるの!?』と言われてきました。

 今回のパリ大会を見ても、男子の試合は男性レフェリーが12人選出されましたが、女子の試合では11人中5人が男性で女性は6人だけです。女性が少なかった理由はおそらく、体力面やスピード面で不足していたからではないかと思います。

 国内で言うとトップリーグやリーグワンには、まだ女性のレフェリーがいません。ただ、世界のラグビー界では強豪国である南アフリカやオーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパのプロリーグでも、女性レフェリーが当たり前にいます」

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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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