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【今、伝えたいこと】競泳選手が水を失った 苦境に立つ後輩へ、寺川綾「頑張ってくださいと言うのは嫌」

新型コロナウイルス感染拡大により、スポーツ界はいまだかつてない困難に直面している。試合、大会などのイベントが軒並み延期、中止に。ファンは“ライブスポーツ”を楽しむことができず、アスリートは自らを最も表現できる場所を失った。

2012年ロンドン五輪でメダルを獲得した寺川綾さん【写真:荒川祐史】
2012年ロンドン五輪でメダルを獲得した寺川綾さん【写真:荒川祐史】

連載「Voice――今、伝えたいこと」第11回、競泳五輪メダリストからのメッセージ

 新型コロナウイルス感染拡大により、スポーツ界はいまだかつてない困難に直面している。試合、大会などのイベントが軒並み延期、中止に。ファンは“ライブスポーツ”を楽しむことができず、アスリートは自らを最も表現できる場所を失った。

 日本全体が苦境に立たされる今、スポーツ界に生きる者は何を思い、現実とどう向き合っているのか。「THE ANSWER」は新連載「Voice――今、伝えたいこと」を始動。各競技の現役選手、OB、指導者らが競技を代表し、それぞれの立場から今、世の中に伝えたい“声”を届ける。

 第11回は、2012年ロンドン五輪競泳女子100メートル背泳ぎ、同400メートルメドレーリレーで銅メダリストの寺川綾さんが登場する。新型コロナ禍で泳ぐことができないスイマーの体への影響、東京五輪・パラリンピックの延期による心の負担を解説。後輩たちの苦しい現状を慮る複雑な心境を抱きつつも、自身の経験を振り返りながら前を向く大切さを語り、アスリートが発揮する「スポーツの力」に期待を込めた。

 ◇ ◇ ◇

 スイマーが泳げない。泳いではいけない。初めて水をかく喜びを知った幼き日から、誰よりも速く水中を突き進む楽しさを知った日から、ずっと当たり前のように生きてきた場所を失った。

「先日話をした選手はまだ自宅待機中で、プールで泳ぐことはしていないようです。いつ再開できるかわからない。確認しきれてはいませんが、所属チームによって動き方もそれぞれだと思います」

 5月2日、Zoomで取材を受けた寺川は明かした。コロナ禍で拠点のプールが閉鎖された選手もいる。未曽有の苦難。ほんの数日だけ泳がないことが、研ぎ澄まされたトップスイマーの感覚を大きく狂わせる。

「水中で使う筋力は水に入らないと付かないものですし、確認できない感覚もあります。厳しいことですよね。水中の手や足の感覚などが失われるのは、競泳選手にとっては一番つらいことだと思います」

 競泳界のエース・瀬戸大也(ANA)は自宅の庭に2、3メートル四方の簡易プールを設置。SNSに「水をキャッチする感覚や泳がないと動かない細かい関節や筋肉があるんです。だから泳がないと」とつづっていた。これについて寺川は「何もできないよりも、少しでも水に触れることで養える部分があると思います」と説明しつつ「スピード感覚などは、大きなプールで自分の力を使って確認しながら泳がないと、感覚に少しズレが生じてしまう」と十分とは言い切れないそうだ。

 自身も現役時代にプールで泳がない代償を痛感したことがある。精神的に苦しく、プールを離れた時があった。「でも、海で泳いでいました。(感覚を失うことが)やはり怖いですよね」。ただし、期間はほんの1週間程度。再びプールに戻った時に味わった感覚は忘れられない。

「スカスカするんですよ。表現が難しいですが、水を捉える感覚みたいなものが鈍ってしまった。泳がなくなる前とは全く違っていて、やはり水泳選手はプールで泳がないとトレーニングにならないんだなと感じました」

 取り戻すには、最低でも休んだ倍の時間が必要だという。緊急事態宣言が出て約1か月半。1年延期になったとはいえ、東京五輪・パラリンピックは問答無用に迫ってくる。このタイミングで「感覚を失う」ことの重大さは、どれほどのものがあるのだろうか。世界各国でも同じような状況だと予想される。寺川は選手だった立場から、心苦しさをにじませながら現役スイマーたちの心情を慮った。

「可哀そうですよね。オリンピック、パラリンピックに向かってどんどん時間は迫っていっているにも関わらず、ようやくプールに入れた時にいつもと違う感覚になるんだろうなと想像するのが、少し怖いというか、そこでまた精神的に大変なのではないかと思います。

 確実に全員が家にいて、全員が練習できていないという状況ではない。それぞれバラバラ。だから、本当に家から出られない国の選手もまだいると思います。そういう選手は……ねぇ、なんかもうつらいですよね。オリンピック、パラリンピックのスタートは決まっていて、自分では何もできないという状況。フェアじゃないというか、選手だった立場としては、つらいでは済まされない心情ではないかと思います」

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