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選手は「得点のために戦う」以外で何をすべきか 「スポーツと栄養」会議で受けた刺激

最も印象に残った2人の豪州元サッカー選手の話

 今回、ほぼすべてのプログラムを聴講しましたが、最も印象に残ったのはオーストラリアの2人の元サッカー選手、ボウ・ブッシュ氏、クレッグ・フォスター氏の話です。

 ブッシュ氏のプログラムタイトルは「障害とメンタルヘルスの間で――逆境からの回復」。現在、オーストラリアの労働組合評議会に加盟するPFA(Professional Footbollers Australia)で働く彼は、引退後のアスリートに起こる問題について報告。プロサッカー選手を対象に実施した「健康とウェルビーイング(幸福)」に関する調査結果によると、オーストラリアのサッカー選手は平均27歳で引退し、3人に1人が(戦力外通告やケガなど)望まない形で引退していること。45.2%が引退後の新しい環境に慣れるため非常に苦労していること。そして、5人に1人が慢性的な健康障害を抱え、19.5%が何らかの精神的な問題を抱えていることなど、シビアな現状について語りました。

 実はブッシュ氏自身も、現役時代から繰り返すケガに苦しみ、思うような結果を残せないまま20代で引退。サッカー一筋で生きてきた彼は、引退後に進むべき道が見えず、落ち込みがひどくなり、家族にも弱音を吐けなかった、と語っていました。本来の自分を取り戻したのは、縁あってPFAで働くようになってからだったとこのこと。それまではサッカーの話をすることも、現役時代を振り返ることも苦痛でしかなく、できなかったそうです。

 ブッシュ氏は最後に、スポーツ選手には現役時代から積極的に、人と、社会とのつながりを構築してほしい、と訴えました。社会とのつながりがあれば物の見方も変わるし、「そのとき」がきても、救われるのだ、と。今、コロナウィルス感染症対策で、アスリートたちは練習の場も成果を発揮する場を失っています。しかし、そもそもアスリートは自分の意志に関わらず、ある日突然、環境が変わったり、非常に困難な状況に陥ったりする環境下で生きている。おそらく、このことを現役の選手に対して一番伝えたかったのでしょう。

 元オーストラリアサッカー代表選手であり、現スポーツアナリストとして活躍するクレッグ・フォスター氏のプログラムは「スポーツと社会的責任」でした。

 サッカーの素晴らしさは世界中に多くのファンやプレーヤーに、サッカーを通じてオーストラリアという国を知ってもらえること。そして、ともに戦うことで、異なる文化、考え方、バックグラウンドを持つ人たちの間に、揺るぎない絆が生まれることである、とフォスター氏。

 つまり、スポーツが与える社会への影響は大きく、だからこそ、スポーツ界、そしてアスリートたちは率先して、社会を助ける活動をするべきだ、と語りました。

 例えば、環境や難民の問題もその一つ。スポーツは環境の影響も非常に受けるため、地球環境をどう守っていくかを伝えることはとても大切だし、オーストラリアは難民受け入れ問題に揺れているが、人権を守るために声を上げることも時には必要である。スポーツ選手はさまざまな制約、契約があるなかでも、社会のためにできることはやるべきだ、と話していました。

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橋本 玲子

株式会社 Food Connection 代表取締役

管理栄養士/公認スポーツ栄養士

ラグビーワールドカップ(W杯)2019で栄養コンサルティング業務を担当。2003年ラグビーW杯日本代表、サッカーJ1横浜F・マリノス(1999年~2017年)、ラグビーリーグワン・埼玉パナソニックワイルドナイツ(2005年~現在)ほか、車いす陸上選手らトップアスリートのコンディション管理を「食と栄養面」からサポート。また、ジュニア世代と保護者に向けての食育活動も行う。アメリカ栄養士会スポーツ循環器栄養グループ(SCAN)並びに、スポーツ栄養の国際的組織PINESのメンバー。アメリカ栄養士会インターナショナルメンバー日本代表(IAAND)として、海外の栄養士との交流も多い。近著に『スポ食~世界で戦うアスリートを目ざす子どもたちに~』(ベースボールマガジン社)

URL:http://food-connection.jp/

長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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