“完璧主義”のアスリートが陥りがちな罠 摂食障害の苦悩から救った「生きていてほしい」の言葉
2月に開催されたミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケートでは、記憶に残る数々の名シーンが生まれた。日本中が固唾を呑んで見守った氷上の華麗な戦いを、THE ANSWERならではの視点で振り返るスペシャル対談。プロフィギュアスケーターで五輪の中継解説を務めた鈴木明子氏と、東大スポーツ先端科学連携研究機構特任講師でスポーツ界のメンタルヘルスに詳しい小塩靖崇氏が、選手たちの“心の中”に迫る。

鈴木明子氏×小塩靖崇氏「スポーツと心のコンディション」対談・第3回
2月に開催されたミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケートでは、記憶に残る数々の名シーンが生まれた。日本中が固唾を呑んで見守った氷上の華麗な戦いを、THE ANSWERならではの視点で振り返るスペシャル対談。プロフィギュアスケーターで五輪の中継解説を務めた鈴木明子氏と、東大スポーツ先端科学連携研究機構特任講師でスポーツ界のメンタルヘルスに詳しい小塩靖崇氏が、選手たちの“心の中”に迫る。
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五輪女子シングル5位のアンバー・グレン(米国)は、13位と出遅れたショートプログラム(SP)後に月経が演技に影響を及ぼしたことを発信した。大きな話題となったこの出来事を出発点に、女性アスリートが抱える特有の悩みと、それを取り巻く日本スポーツ界の環境について2人が議論。鈴木氏自身が苦しんだ摂食障害の経験を踏まえながら、完璧主義に陥りがちなアスリートが持つべきメンタリティーについて語り合った。(取材・文=長島 恭子)
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小塩靖崇(以下、小塩)「たくさんのドラマを生んだフィギュアスケーターたちの言動は、ミラノ・コルティナ五輪後も注目を集めています。アメリカ代表のアンバー・グレン選手が、大会中の月経についてオープンに発信したこともその一つです。『メダルを獲れなかったことの言い訳だ』というネガティブな声も上がりましたが、グレン選手の告白を率直にどう思われましたか?」
鈴木明子(以下、鈴木)「世界のトップ選手が月経について正直にコメントを発信したことは、月経が競技パフォーマンスに与える影響を知ってもらううえで、大変意義深いと感じています。実は私も、自分自身の月経について積極的に発信しています。そうしようと決めたのは、自分が現役時代、『競技者としては生理がないほうが楽だからいい』と思ってしまったからです。
現役時代の私は、1年間のうちシーズン中にあたる半年間は、月経がこないことが当たり前でした。また、コーチからも、『生理が止まる=しっかり自分を追い込めている証拠だ』と言われたことがあります」
小塩「近年は、以前に比べると月経や女性アスリートの健康について理解を広げようという動きも少しずつ進んできていますが、それでもなお、『月経が止まるほど頑張ってこそ一人前』といった考え方が、一部には残っているのかもしれませんね」
鈴木「残念ながら私のいるフィギュアスケートの世界でも、『選手としての成長は生理がくるまでがリミット』と考え、初経を迎えるとショックを受けたり、月経をネガティブに捉えたりする選手や親御さんはいまだにいます。
私は29歳で競技を引退しましたが、フィギュアスケートではその年齢まで続ける人はとても少ないんですね。年齢が若いほど競技生活を終えた先のことまでは考えられず、月経が止まるほど“今”を頑張ってしまう。しかし、フィギュアスケーターとしてのキャリアは、長い長い人生のほんの一部です。そのことを後輩たちに伝えていくべきだと思いました」
小塩「一方で、月経のことを口にすること自体に、恥ずかしさや話しにくさを感じる方も多いように思います。そうしたなかで、ご自身の経験を発信することに抵抗はありませんでしたか?」
鈴木「まったくなかったですね。というのも私たちはオープンな海外の文化とも触れる機会が多く、月経のことに関しても『隠すもの』という感覚が薄かったんです。むしろ月経に対する理解をもっと広げなくてはいけないと考えていました。特にフィギュアスケートの世界では親が子ども(選手)の競技生活をサポートするケースが多いため、親子で月経を正しく理解し、知識を持つことの重要性を感じていました」
小塩「そうしたなかで、いつ頃からご自身の体のことを改めて学んだり、月経と向き合ったりするようになったのでしょうか?」
鈴木「引退する年にあたる29歳のときです。競技人生の後半で次のセカンドキャリアを見据えた時、同い年の友人たちが結婚したり出産したりする姿を見て、『あれ? 果たして私は今後の人生を、女性として健康に生きていけるんだろうか』と猛烈な不安に襲われたんです。」
小塩「スポーツ界におけるメンタルヘルスや月経に関する知見は、近年ようやく研究や情報発信が広がってきたところだと思います。だからこそ、鈴木さんのような実際の経験を持つアスリートの言葉と、アカデミックな知識の両方を組み合わせた学びの場が、これからのスポーツ界にはますます大切になってくるのではないでしょうか」
鈴木「それは選手にとって、すごく良いと思います。私自身、『月経周期が安定しているほうが競技力も向上する』というデータを見せていただいたのも、ほんの数年前のことです。女性アスリートのコンディショニングを専門とする日本体育大学の須永美歌子教授に教えていただいたのですが、そのデータを現役時代に知っていたら、きっと月経との向き合い方は変わっていたはずだ、と感じました。『生理が始まると体が重くなる』『ジャンプが跳べなくなる』という恐怖心を払拭するためにも、選手もサポートする指導者や家族も、正しい知識を学ぶ場を持つべきです」
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