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“完璧主義”のアスリートが陥りがちな罠 摂食障害の苦悩から救った「生きていてほしい」の言葉

小塩氏が考える、受診や服薬の本質的な支え方とは【写真:松橋晶子】
小塩氏が考える、受診や服薬の本質的な支え方とは【写真:松橋晶子】

受診や服薬は「弱さの証明ではない」

小塩「ご自身の苦しかった経験を言葉にして伝えられる方は、決して多くありません。だからこそ、アスリートが自分の経験を語っていくことにはスポーツ界に限らず、社会全体にとっても大きな意味があるように思います。

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 特にメンタルヘルスについては、『本当に深刻な状態になった人だけが受診するもの』と受け止められやすく、少しつらい、よく眠れない、気持ちが不安定だ、といった段階では相談や受診につながりにくいことが少なくありません。これはアスリートに限らず、一般の社会でも見られる傾向です。だからこそ、『不調があったら早めに相談してよい』『助けを借りながら立て直していける』というイメージを広げていくことが大切なのだと思います」

鈴木「わかります。私も『病院に行ったら負けだ』と思っていましたから(笑)。特にアスリートの世界では、心や体の不調を訴えることは、“負け”や“甘え”と捉える傾向があります。当人や周囲だけでなく、観ている人たちにもそう捉えられやすい。私自身、不眠で練習が手につかなくなった時、クリニックで抗不安薬を処方されましたが、『アスリートとして薬に頼っていいのか』と躊躇しましたし、強い抵抗を感じました。

 でも、当時かかっていた内科の先生に『今、一番すべきことは何?』と聞かれ、『ちゃんと寝て、コンディションを整えて、試合に臨むことです』と答えました。すると、『その助けをするのがこの薬だよ』と言われ、ストンと納得できたのです。薬に頼ったおかげで、眠ることも練習もできるといういいサイクルが整い、救われました」

小塩「そこはとても大事な場面ですね。不眠になるまで抱え込んでしまうアスリートは少なくありませんし、『助けを借りること』や『薬を使うこと』に強い抵抗を感じる方も多いと思います。だからこそ、その内科の先生が『今、一番すべきことは何か』という問いに戻してくれたことには、大きな意味があったのではないでしょうか。受診や服薬を“弱さの証明”と捉えるのではなく、自分のコンディションを整えて、本来やりたいことに戻るための手段として位置づけ直してくれた。とても本質的な支え方だったように感じます」

鈴木「『自分がやるべきことは何か』を冷静に判断し、外部の助けを借りることは、弱さではなくプロとしてのコンディショニングの一つです。メンタルに不調があっても、決して『弱い』と一生レッテルを貼られるものではありません。卒業もできるし、つらくなったら戻れるし」

小塩「そうですね。不調の有無を白か黒かのように分けるのではなく、誰でも揺らぐことがあり、また整えていくこともできる、という理解が大切です。弱さを見せることや、誰かに頼ることは、決して否定的なことではありません。スポーツ界でも、メンタルの不調があっても、適切な支えやケアによって再び競技に向き合っていける、というイメージをもっと広げていくことが大事なのではないでしょうか。その意味でも、鈴木さんのようにご自身の経験を言葉にしながら、今も前向きに活動されている存在は、現役選手にとって大きな希望になるように感じます」

鈴木「ありがとうございます。実際、現役時代、つらい経験もたくさんしましたが、競技生活に一切の後悔はありませんし、今の人生もとても気に入っています。

 今の私には後輩の選手たちが様々な選択を考えるうえで、自分の経験を“参考資料”として提示することはできます。今後も適切な距離感でサポートしながら、アスリートが人生を丸ごと楽しめるような環境を作っていけたら嬉しいです」

■鈴木明子 / Akiko Suzuki

 1985年3月28日生まれ。愛知県出身。6歳からスケートを始め、00年に15歳で初出場した全日本選手権で4位に入り、脚光を浴びる。東北福祉大入学後に摂食障害を患い、03-04年シーズンは休養。翌シーズンに復帰後は09年全日本選手権2位となり、24歳で初の表彰台。10年バンクーバー五輪8位入賞。以降、12年世界選手権3位、13年全日本選手権優勝などの実績を残し、14年ソチ五輪で2大会連続8位入賞。同年の世界選手権を最後に29歳で現役引退した。現在はプロフィギュアスケーターとして活躍する傍ら、全国で講演活動も行う。

■小塩靖崇 / Yasutaka Ojio

 東京大学スポーツ先端科学連携研究機構(UTSSI)特任講師。三重大学医学部看護学科卒業後、病院での臨床経験を経て、東京大学大学院教育研究科にて博士号(教育学)を取得。2017年より国立精神・神経医療研究センターにて、若者のメンタルヘルス教育および研究に従事。健康教育学を専門とし、教育現場やスポーツの場におけるメンタルヘルス教育プログラムの開発、学校教員向けの教科書執筆などに携わっている。また、アスリートと協働で進めるメンタルヘルスプロジェクト『よわいはつよいプロジェクト』に研究の観点から関わっている。近著に『10代を支えるスポーツメンタルケアのはじめ方』(大和書房)、『PDPの教科書―アスリートを支える新しいカタチ』(大修館書店)。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。人物インタビュー、ヘルスケア、ダイエット、トレーニングの分野を軸に、雑誌、書籍等で編集・執筆を行う。担当書籍に『すごい股関節』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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