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「アスリートは常に強く」は間違っている りくりゅう金メダルに見た、弱さを“さらけ出す”大切さ

小塩靖崇氏がりくりゅうの深いパートナーシップが表れていると感じたシーンとは【写真:松橋晶子】
小塩靖崇氏がりくりゅうの深いパートナーシップが表れていると感じたシーンとは【写真:松橋晶子】

相手の特徴を個性として受け止められる関係性

鈴木「あと2人の関係性で面白いなと思ったインタビューがあるんです。今回、璃来ちゃんは五輪中に忘れ物がすごく多かったそうなんです。それに対して木原選手が『璃来ちゃんに忘れ物が多い時は、競技に集中している時だから、いい状態だ』って言うんですよ」

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小塩「それはとても興味深いですね。木原選手は、ご自身のルーティンや準備を大切にしている印象がありますので、一見すると三浦選手とは正反対にも見えます。でも、だからこそ相手の特徴を『自分と違うから困ること』としてではなく、『その人の状態を知る手がかり』として受け止めているのかもしれませんね」

鈴木「そうなんです。彼は普段は冷静でいろいろときちんと決めているタイプ。普通なら自分がきちんとしていると、相手のうっかりにも『こんな大事な時に忘れ物するなよ!』と、イライラしたり怒ったりすると思うんです。でも、璃来ちゃんのことを分かっているから、『忘れ物が多い=璃来ちゃんの調子がいいぞ』と思える。短所を短所として取らず、その人の個性として受け止めている。これこそが2人の良さだなあと思いました」

小塩「『これってこうとも言えるよね』と少し視点を変えて捉えてみること、いわゆるリフレーミングの姿勢は、スポーツを続けるうえでも大切なのだと思います。というのも、人の弱みや短所と見えるものが、場面や関係性が変わることで、別の意味を持つことがあるからです。欠点をただ直す対象にするのではなく、その人らしさの一部として理解しようとすることは、支え合う関係の土台にもなるように感じます。りくりゅうのお二人の関係にも、そうした姿勢が表れているかもしれません。ちなみに普段のりくりゅうは、昔から木原さんが三浦さんを引っ張っていく関係だという記事を読みましたが……」

鈴木「そうですね。恐らく2人の年齢差(五輪当時、三浦選手24歳、木原選手33歳)の影響もありますが、いつもは木原選手が“お兄さん”としてリードする存在。ちょっとうっかりしがちな璃来ちゃんをサポートする、という感じです。

 例えば、昨年の全日本選手権で璃来ちゃんが肩を脱臼した際、バックヤードで『また外れちゃったらどうしよう』と不安がる璃来ちゃんに、木原選手は『絶対に腕を僕が外さないようにサポートして滑るから、信じて大丈夫だよ』と声をかけていました。5歳から彼を知っている私としては、『なんて頼もしい男になったんだ!』と思いました(笑)」

小塩「では、今回のオリンピックでは、その立場が完全に逆転していたんですね」

鈴木「はい。あそこまで落ち込んでいる彼を見た時の璃来ちゃんの支え方は、覚悟が決まっている感じがしてなんと頼もしいと思ったことか。あそこまで落ち込んでいる彼を支える璃来ちゃんの様子を見た時、覚悟が決まっている感じがして、なんとも頼もしく『フリーは大丈夫』と思わせてくれました」

小塩「ショート終了後からフリー当日のウォーミングアップまで『ずっと泣いていた』という木原さんが、『なんで泣いているのか(自分でも)分からない』と話していたことに対して、三浦さんは『赤ちゃんみたい』と表現しました。私は、そのやり取りにも、お二人の深いパートナーシップが表れているように感じました。自分でも整理しきれない感情を、そのまま相手の前に出せるというのは、決して当たり前のことではありません。弱さや混乱を見せても大丈夫だと思えること、そしてそれを受け止めてもらえる感覚が、普段からお二人の間に育まれていたのかもしれません」

鈴木「まさにお互いが支え合う『人』という字そのものの関係性ですよね。スポーツにおけるパートナーシップの理想の関係性とは、状況に応じて一方が弱くなったりダメになりかけたりした時に、もう一方が引っ張れることなのかなと、今回、りくりゅうを観ていて感じました。また、2人のコーチであるブルーノ・マルコットコーチも、ものすごく愛情深く、選手を温かく導ける人。3人の良いバランスも、今回の結果につながる要因だったと感じます」

小塩「弱さを見せることや、誰かに頼ることは、決して否定的なことではないと思います。りくりゅうのお二人のように、お互いの凸凹を認め合いながら、時には相手を頼り、時には自分でも踏ん張って支え合える関係性は、これからのスポーツ界でもますます大切になっていくのではないでしょうか。誰もが1人で完璧でいることはできないからこそ、それぞれの個性を補い合うことで、1人では生み出せない成果や感動につながっていくのだと思います」

五輪フィギュアを振り返るスペシャル対談を行った鈴木氏(左)と小塩氏【写真:松橋晶子】
五輪フィギュアを振り返るスペシャル対談を行った鈴木氏(左)と小塩氏【写真:松橋晶子】

■鈴木明子 / Akiko Suzuki

 1985年3月28日生まれ。愛知県出身。6歳からスケートを始め、00年に15歳で初出場した全日本選手権で4位に入り、脚光を浴びる。東北福祉大入学後に摂食障害を患い、03-04年シーズンは休養。翌シーズンに復帰後は09年全日本選手権2位となり、24歳で初の表彰台。10年バンクーバー五輪8位入賞。以降、12年世界選手権3位、13年全日本選手権優勝などの実績を残し、14年ソチ五輪で2大会連続8位入賞。同年の世界選手権を最後に29歳で現役引退した。現在はプロフィギュアスケーターとして活躍する傍ら、全国で講演活動も行う。

■小塩靖崇 / Yasutaka Ojio

 東京大学スポーツ先端科学連携研究機構(UTSSI)特任講師。三重大学医学部看護学科卒業後、病院での臨床経験を経て、東京大学大学院教育研究科にて博士号(教育学)を取得。2017年より国立精神・神経医療研究センターにて、若者のメンタルヘルス教育および研究に従事。健康教育学を専門とし、教育現場やスポーツの場におけるメンタルヘルス教育プログラムの開発、学校教員向けの教科書執筆などに携わっている。また、アスリートと協働で進めるメンタルヘルスプロジェクト『よわいはつよいプロジェクト』に研究の観点から関わっている。近著に『10代を支えるスポーツメンタルケアのはじめ方』(大和書房)、『PDPの教科書―アスリートを支える新しいカタチ』(大修館書店)。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。人物インタビュー、ヘルスケア、ダイエット、トレーニングの分野を軸に、雑誌、書籍等で編集・執筆を行う。担当書籍に『すごい股関節』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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