死亡事故きっかけに…高校スポーツの熱中症対策、米国は法制化加速 “お金をつぎ込める学校”は新たな対策も
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「高校スポーツの熱中症対策」。

「Sports From USA」―今回は「高校スポーツの熱中症対策」
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「高校スポーツの熱中症対策」。
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2020年、フロリダ州で「ザカリー・マーティン法」が成立した。ザカリー・マーティンとは人の名前である。彼はフロリダ州フォートマイヤーズの高校アメリカンフットボール選手だったが、2017年にアメリカンフットボール部の活動中に熱中症で亡くなった。遺族が、学校側が十分な対策を取っていれば死亡には至っていないとして、熱中症予防の法制化を強く働きかけた。
法の内容は次のようなものだ。フロリダ州高校体育協会は加盟校に対して、熱中症のガイドラインに沿って活動を行うことを義務付け、さらに冷却ゾーンの設置を義務付ける。電解質を含む適切な水分補給のガイドライン策定をするというものだ。
法は現場ではどのように守られているのか。私は2024年2月、フロリダ州中部にあるポーク郡公立学区のアスレチック・ディレクターであるダン・タルボットさんに話を聞いた。ポーク郡公立学区には17の高校があり、タルボットさんは17校の運動部活動を管理する立場にある。
まず、この法を守るための予算を学区から獲得した。WBGT(湿球黒球温度)測定器を揃え、各校にAEDを設置し、冷却ゾーンのためのテントを購入。アイスバスには、それほどお金はかかっていない。「冷水用の大きな水槽は地元のハードウェア店で購入しました。この費用は130ドルほどでした」。各活動場所を巡回するタルボットさんの公用車にもWBGT測定器とAEDを常備している。
暑さ指数が30度を超えると、冷却ゾーンを作るのだという。「水槽に水を入れておき、必要なときにはこの水槽に氷を入れます。例えば練習では屋外に4つのテントを張り、各テントに水槽を設置します。(熱中症の症状があるときには)まず、生徒を氷の入った水槽に入れます。体を冷やすのが最初で、救急搬送をするのはその次です」。
また、暑さ指数が33.4度を超えると、いかなる活動も中止しなければいけない。
フロリダ州だけでなく、ニュージャージー州、ルイジアナ州にも同様の法がある。また、ジョージア州の高校体育協会では、熱中症予防のガイドライン違反には、500ドルから1000ドルの罰金としている。