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列島を感動させたスコットランド戦から1年 日本に“ラグビー文化”は根付いたのか

再建が決まっている秩父宮は本当に人工芝化して良いのか

「感染すること」よりも「感染させること」への対策が求められる状況下で、そう簡単に多くの人が交流するイベントを開催するのは容易ではないのは間違いない。協会やチームが慎重に判断をせざるを得ないことも十分に理解できる。それでも、可能性を模索しなければ何も起こらないし、1年前の力強いメッセージは日を追うごとに忘却の中に埋没してゆく。

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 コロナ禍の緊急対策として使われるようになったウェブを使った通信、コミュニケーションツールだが、以前なら全員が集まらなければ実現しなかったイベントも開催可能になるという恩恵が生まれている。日本代表選手が一同に集まらなくても、多くの選手、スタッフが参加して、ファンやファン以外も巻き込んだ交流は可能なはずだ。

 4日の関東大学ラグビー開幕日には、人数制限の下で東京・北青山の秩父宮ラグビー場に4260人のファンが集まった。この現実を考えれば、感染のリスクはゼロではなくても、人が集まるイベントの開催も検討する余地はあるだろう。

 理想的なのは、W杯から1年、しかも大学公式戦前という日本ラグビーの再出発のタイミングで、W杯日本大会終了後の昨年12月11日に行われた日本代表選手によるパレードのようなビッグイベントだった。専務理事も開催を目指している年内のイベントが、パレードに負けないインパクトと発信力を持って実現することを期待したい。

 国内大会のこれからを見ると、2022年1月には現在のトップリーグ(TL)に代わる新リーグ発足を準備している。しかし、その概要発表も後手を踏んでいる。構想を実現するために今年1月には「新リーグ準備室」を発足させ、数か月に1度のペースでメディアブリーフィングを開催するなど情報発信、準備過程の透明化を図っていることは評価できる。

 しかし、従来のTL以上に発信力を持たせたい大きな事業であるにも関わらず、15か月後に開幕することを考えると、ファンや市民を惹きつけるような情報発信が少なすぎる。いまだにリーグ名称すら発表されていないのが実情だ。昨秋のW杯で高まった国内のラグビーに対する熱気の継続、そして、さらなる関心度アップを踏まえれば、この新リーグも重要な発信材料なのだが、現時点では、その役割を十分に果たせていない。今すぐにでも、このリーグが何を目指し、どんな恩恵をもたらすのかをファンに示す必要があるのではないだろうか。

 W杯では会場からは漏れたが、いまでも日本ラグビーの聖地と謳われる秩父宮ラグビー場も、大きな変革期を迎えている。オリンピック東京大会前に発表された神宮外苑一帯の再開発計画で、現在の神宮第2球場付近に移転して再建されることが確定している。オリンピックの1年延期で、建設計画も遅延、修正を余儀なくされているが、現時点では秩父宮という名称とラグビーの聖地という位置づけの継承と同時に、「多用途で利用可能な施設にする」ことを重視する指針を設計計画に盛り込む方針が確認されている。

 しかし個人的には、この多用途で使用するという部分が大きな問題だと考えている。ラグビーの聖地でありながら、多用途を求めるということが意味するのは、試合開催日以外にラグビー以外のイベントを開催することで収益性を求めていくことを意味している。具体的には、コンサートなどの開催が考えられているはずだ。現代のスポーツビジネスを考えれば、スタジアムに収益性を持たせることは当然のことだ。そして、収益性を重視するためには、この聖地が人工芝化されるのはほぼ確定と判断せざるを得ない。

 9月16日のウェブブリーフィングで、岩渕専務理事は天然芝か人工芝かについて「色々な議論がなされているが、人工芝化については、国際的な試合が行えるならばという形であればということで、協会の中では前向きな話はしている。最終的に(人工芝化)するのであれば承認するということになっている」と説明している。一方で「人工芝にしていいということにはなっていないので、まだ議論するという段階にあると考えている」「歴史的な経緯もある。ラグビーの聖地としての専用スタジアムということでお願いもしている」とも付け加えているが、関係者への取材では、2018年には協会首脳の中で「政府側からの“収益性を踏まえて稼働率を上げる”という要望を踏まえた人工芝化はやむを得ない」という確認がされていることがわかっている。

 現在、秩父宮を管理するのは日本スポーツ振興センター(JSC)だ。新秩父宮の発注元でもある。このJSCと共に、東京都や文科省などが参画して再開発計画を進めているのだが、これらの諸団体が優先するのは、当然のことながら効率性と収益性であり、人工芝化に異議を唱える団体はないはずだ。唯一、天然芝も検討するべきだと進言できるのはラグビー協会しかないが、先に書いたように実質上、人工芝化を容認しているのだ。もちろん読者の中でも人工芝化に賛同する方も少なくないだろう。合理的に考えれば当たり前だ。だが、2015年W杯で活躍した五郎丸歩(ヤマハ発動機)の言葉を思い出してほしい。W杯で時の人となった五郎丸が、様々な場所で発言したコメントの中で何度も力説したことがある。

「日本にラグビー文化を根付かせたい」

 五郎丸たちの2015年の活躍が日本にラグビー文化の種を植えたとしたら、4年後の日本大会での躍進こそが根付かせる過去にないチャンスのはずだ。断わっておくが、五郎丸は人工芝と天然芝の良し悪しを述べているのではない。だが、多くの人に愛され、共感される時代を迎えたはずの日本のラグビー界で、ナショナルスタジアムが人工芝では、W杯で誰もが予想しなかったほどの成功を収めた意義や恩恵はどこにあるのだろうかと考えてしまう。世界各国のナショナルスタジアムを見ても、トップ10に入るようなチームで天然芝の本拠地を持たない国はない。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19年と6大会連続で取材。

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