「勝つ」と選手に言わず日本一に 明大ラグビー部と苦節5年、こだわる鍋料理に「学生スポーツ」の意義
明大ラグビー部が今も鍋料理を積極的に取り入れる深い意味
神鳥監督が指揮した5シーズンを振り返ると、対抗戦、大学選手権で負けた相手は昨季の筑波大(対抗戦)の1敗以外は早稲田と帝京の2チームだけだった。この2校との5年間の対戦成績は早稲田と4勝3敗、帝京とは1勝7敗になる。ここまでの5年に限れば、議論はあるが大学選手権優勝は勿論、決勝戦進出チームもこの3校が独占する。
「今の大学ラグビーの勢力図をそのまま表しているというのが率直な印象です。他にも力を付けているチームはありますが、自分たちが本当に優勝を意識した時に必ず立ちはだかるのがこの2校です。振り返ってみると、この2チームに勝つことで優勝のチャンスが出て来るのだろうなと思います。多くの学びがあった対戦でした。監督だった5年間は、帝京を軸に僕たちと早稲田がそこにチャレンジしてきた。伝統校のライバルという観点では早明戦がすごく刺激になりますが、帝京大は、学生たちが成長するためには欠かせないチームだと思います」
その早稲田、帝京を最終シーズンに倒して、指揮官としては最高の結末で終えた5シーズン。監督を続ける中で感じた大学ラグビーの価値を聞くと、戸惑うことなくこう答えた。
「学生たちが、いかにラグビー部に来て良かったと思ってもらえるかです。ラグビーも大事ですけれど、4年間でかけがえのない思い出を作る。それが大事だなと考えていました。同じ監督をやっていても、リーグワンと大学での大きな違いの一つはここだと思います。最近、僕の同期の仲間17、8人くらいが集まってくれたんです。その時に、俺らが強かったとか、あの試合どうだったかとか、ラグビーの話は一切しなかった。寮での生活や、皆で遊びに行った時の出来事、些細な事件とか他愛のないことばかり話していたんです。今の部員たちにも、いかに学生生活を充実させられるかが大事だと思っています」
勝つことだけに価値を置かない考え方は、食事にも反映されている。明大ラグビー部では伝統的に鍋料理も積極的にメニューに取り入れられているが、神鳥監督には感染症を不安視する意見もあるという。
「特に大きな試合の前は控えた方がいいとも言われます。でも、明治では、ずっとメニューにしています。鍋を皆で突っつくことが、部員同士の距離を縮めてくれるし、いつか仲間と集まった時に、こんなことあった、あんなこともあったという思い出を残してあげることも大事だと思うんです。その時に、鍋を一緒に食べたこともきっといい思い出になる。勿論、いい思い出の究極が優勝だと思うけれど、優勝だけが全てじゃない。大学の監督を経験させてもらって、人間形成じゃないけれども、長い人生の中での4年間を、より濃密に感じてもらえるかを意識出来る指導者じゃないといけないと、改めて教えられました」
では、監督を経験したことで感じる明治大学ラグビーとは、どんなチーム、どんな存在なのだろうか。
「学生にはいろいろな所で言っているんですけど、“一番良かった”にはなってほしくないんです。『明治の時は良かった』とか『あの4年間は最高だった』という、そんな人生は送って欲しくない。おそらく、その時その時で素敵なことは沢山あるだろうし。でもあの4年間に替わるものはないなと、そういうものですよね。僕の中で選手としての4年間は他に替え難い特別な経験でしたし、47歳から51歳までの5年間で、またかけがえのない経験をさせてもらいました。ただ、学生たちには、あの時が良くて、それを励みに生きて行くだけの人生はつまらないですから」
言葉から浮かび上がるのは、この名門ラグビー部監督の5年間の仕事は、「結果」を求めてきたのは勿論だが、それ以上に「育成」を大切にしてきたことだ。才能あふれる選手を、さらに次のステージでも輝けるように育てる。チームの活動中でも、代表合宿に呼ばれた選手は極力参加させているのも、そんな育成視線が背景にある。一発勝負の大会ばかりの日本の学生ラグビーでは、どうしても指導者が結果優先の考え方になる中で、メインストリームを進んできた伝統校の監督が、選手たちの「その先」を踏まえた眼差しを持って挑戦を続けてきたことに価値がある。
最後に、これからの明治大学ラグビー部に期待することを聞くと、悪戯っぽい笑顔で、こう語った。
「勿論2連覇ですよ! 僕が監督の時は『勝つ』とは言わずに『練習通りやる』と話していた。でも、いちOBとなったら『勝て』と言いますよ。でも、それは今のメンバーが力をしっかり発揮出来れば可能だからこそ言うんです。明治がまだ達成したことのない3連覇までいってほしいですね」
神鳥監督以上に真面目な高野新監督にとっては重荷となる激励だが、選手層、強化環境を考えると、“目線”は最上の位置に据えていいはずだ。神鳥監督の5年間の仕事をどう継承し、どう高野カラーを滲ませるのか。新たな挑戦は既に始まっている。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)
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