指2本骨折&20針縫う大怪我、わずか1か月半で全国3位に “元・ネガティブ思考高校生”の転機は一人暮らし――筑波大・勝くるみ
5日から4日間、岡山のJFE晴れの国スタジアムで行われた陸上の第94回日本学生競技対校選手権(日本インカレ)。熱戦を取材した「THE ANSWER」は文武両道で部活に励む選手や、怪我や困難を乗り越えた選手など、さまざまなストーリーを持つ学生を取り上げる。今回は女子800メートルで3位となった筑波大の勝(すぐれ)くるみ(3年)。4月のレース中に負った大怪我が完治しない中、大学最高峰の舞台を堂々と戦った。逆境でも笑顔を絶やさない21歳。ポジティブ思考の原点を聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂)

陸上・日本インカレ 女子800メートル/筑波大・勝くるみ(3年)
5日から4日間、岡山のJFE晴れの国スタジアムで行われた陸上の第94回日本学生競技対校選手権(日本インカレ)。熱戦を取材した「THE ANSWER」は文武両道で部活に励む選手や、怪我や困難を乗り越えた選手など、さまざまなストーリーを持つ学生を取り上げる。今回は女子800メートルで3位となった筑波大の勝(すぐれ)くるみ(3年)。4月のレース中に負った大怪我が完治しない中、大学最高峰の舞台を堂々と戦った。逆境でも笑顔を絶やさない21歳。ポジティブ思考の原点を聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂)
痛々しさの残る左手を力強く振り、1年前の自分を1つ超えてみせた。
オープンレーンになり、7番手に付けた勝。森千莉 (至学館大・2年)、西田有里(立命大・2年)が残り6人をちぎる展開になると、勝は素早く反応し、外側から追い上げて300メートル地点で3番手に浮上した。ラスト1周、前を走る2人を猛追し、ラスト100メートルでは後方から迫ってきた長谷川麻央(京都教育大・4年)との競り合いに。上位2人はとらえられなかったものの、長谷川を0秒07差で制して2分06秒31の3位に滑り込んだ。
「去年は4位だったので、表彰台に上れたことはとても嬉しく思うんですけど、優勝したかったな……という思いが強い」。レース後の表情は充実感と悔しさが入り混じっていた。
大学3年目の今季は波乱のスタートとなった。
4月26日の日本学生個人選手権、800メートル予選で他の選手と接触し転倒。縁石に左手をついて負傷した。4着で完走するも、そのまま病院に直行し、2時間後には縫合。親指と小指は骨折し、手のひらの外側を20針縫う大怪我だった。
包帯ぐるぐる巻きの中、「心まで折れてる場合じゃない」と5月の関東インカレでは地力を発揮して優勝。そこから1か月――。靴紐はまだ結べず、私生活でも左手の代わりに口を使うなど苦労もあるが、大学最高峰の舞台を堂々と駆け抜けた。

笑顔がトレードマークの21歳。レース前に名前を紹介されると、固定が外れた左手を使って筑波大の校章を作り、ポーズを取った。関東インカレの際はできる状態ではなく「やっと念願の!!」ととびきりの笑顔を覗かせた。
骨折をしても負けないメンタル、大舞台でも笑顔でいられる姿を見ていると想像できないが、実は「高校生までは少しネガティブだったんです」と打ち明ける。ポジティブ思考を意識するようになったのは大学に入って一人暮らしを始めてから。
筑波大の陸上競技部は一人暮らしの部員も多い。一緒にご飯を食べるなど、助け合って生活している。ただ、家に帰れば一人ぼっち。高校の頃は「試合か……ダメかな……」と不意に不安をこぼすと、母が「大丈夫だよ」と励ましてくれる存在だった。
「でも今は家で一人なので、そこでネガティブだとどんどん落ちてしまう」。常に支えがそばにある高校時代とは全く違う環境。だからこそ、自分の心は自分でコントロールする。一人暮らしという日常生活の小さな転機から逆境でも諦めない精神力を身につけた。