五輪2連覇→第1子出産→7か月で日本一 練習よりキツかった出産「お母さんは本当にすごい」――レスリング・金城梨紗子
どんな練習よりキツい出産「世の中のお母さんたちは本当にすごい」
月日は流れ、2022年5月10日。予定日よりも2週間早く、金城は母になる。
この日は前の晩から痛みで眠れなかった。「陣痛ってとんでもなく痛いものだと想像していたので、こんなもんじゃない、とめっちゃガマンしていた」。そのガマンも限界となり、翌朝、母に相談。「行くだけ行ってみれば?」と言われて病院に行くと、即入院となった。
「でも、分娩室に入り、子宮口が7センチくらいまで開いたところで、急に陣痛が弱まってしまって。このままでは母子ともに危ないからと言われ、緊急で帝王切開に切り替えました」
現役続行を決めていたため、即座に医師が薬剤の成分や禁止物質を確認し、手術。入院から約12時間後、無事、長女が誕生した。
「麻酔をしていたので、翌日の午後、初めて娘を腕に抱き、授乳をしました。よく引退した先輩たちが言うんです。『レスリングほどキツイことはないから、引退して社会に出てからも、どんなことがあっても頑張れるよ』って。でも、出産を経験すると『どんな練習よりも出産の方がキツイよ』と言われるので、かなり心構えをしていました。だから、いきんでいる間中、『コレかーッ! 先輩の言っていたことわかるーッ!!』て、思っていましたね(笑)。
経験して思うのは、『出産ってすごいんだな』ということ。世の中には2人、3人と産んでいるお母さんたちがいますが、本当に尊敬します」
その後、金城は計画通り、5か月後に試合に復帰。冒頭の通りいきなり優勝を飾る。さらにその2か月後の全日本選手権。競技復帰の最初の目標である、日本チャンピオンに返り咲いた。
「やっぱり、川井ではなく『金城』として、それから子どもを産んでも、金メダルを獲りたいという気持ちがあったので嬉しかった。『子どもがいて、五輪3連覇を目指せる選手は、日本中探してもどの競技にもいない。だから頑張れ』。心配していた夫も、今ではそう言って応援してくれています」
(後編「出産した女性アスリートの実体験 夜中の授乳なく『すごく親孝行』、困るのは合宿中の預け先」へ続く)
■金城 梨紗子 / Risako Kinjyo
旧姓・川井梨紗子。1994年11月21日生まれ。石川県出身。小学2年から母・初江さんがコーチを務めるクラブでレスリングを始める。至学館大在学中の2016年リオデジャネイロ五輪63キロ級で金メダルを獲得。続く2021年の東京五輪57キロ級で金メダルを獲得し、妹・友香子とともに姉妹優勝を果たした。2021年8月、同じレスリング選手だった金城希龍さんとの結婚を公表。2022年5月10日に第1子となる長女を出産。10月、1年2か月ぶりの試合復帰となった全日本女子オープン選手権で59キロ級で優勝。続く12月の全日本選手権でも、同じく59キロ級で出場し、5年ぶり4度目の優勝を決めた。2017から世界選手権3連覇。サントリービバレッジソリューション所属。
<3月5日「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」オンラインイベント開催>
オンラインイベント「女性アスリートのカラダの学校」を3月5日に開催する。アスリートや専門家が女性アスリートのコンディショニングについて議論を交わしながら、参加者の質問にも答える。第1部は「月経とコンディショニング」をテーマにスポーツクライミング東京五輪銅メダリスト・野口啓代さんをゲストに迎え、月経周期を考慮したコンディショニングを研究する日体大・須永美歌子教授が講師を担当。第2部は「食事と体重管理」をテーマに体操でリオデジャネイロ、東京五輪2大会連続団体入賞の杉原愛子さんをゲストに迎え、公認スポーツ栄養士の橋本玲子氏が講師を担当。1、2部ともに月経など女性アスリートの課題を発信している元競泳日本代表・伊藤華英さんがMCを務める。参加無料。応募は「THE ANSWER」公式サイトから。詳細(https://the-ans.jp/news/304085/)
(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)