「女性には指導できない」の偏見を打破できるか 五輪出場3度、競歩・岡田久美子監督の新たな挑戦
日本で女性エリートコーチが増えない2つの要因
日本の女性エリートコーチといえば、柔道女子日本代表初の女性監督として、塚田真希氏が就任したことも記憶に新しい。しかし、JSPO(日本スポーツ協会)の登録コーチの数を見ても、国内のトップリーグや大会レベルのチーム、選手を指導する女性資格保有者は全体の18%。国際大会レベルになるとわずか8%にまで落ち込む。
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來田教授によると、女性のリーダーシップ育成が遅れている要因についての認識に、男女間で明確なズレがあることを明らかにした研究もある。女性側が「自分たちが(競技団体等の)意思決定に関わっていないから」と構造的な問題を指摘するのに対し、男性側は「女性の意思決定力が弱いから」「女子のリーダーシップが育成されていないから」といった、女性個人の資質の問題とする回答が多く見られたのだ。
日本でも女性エリートコーチが増えない要因として、「競技団体等の意思決定構造の問題」と「根強い伝統的ジェンダー規範」が考えられている。
「つまり、ジェンダー平等の政策を策定する段階から、『なぜ女性コーチが増えないのか』という課題に対する認識がズレている。日本のスポーツ界も不平等を解消するために様々な政策を行ってきましたが、効果が出ない理由はそこにあると考えられます。
例えば、これまでの女性エリートコーチの育成は『候補者を選んで育てていく』というロードマップ型が主流です。しかし、それでは根本的な問題解決にはなりません。女性に焦点を当てたプログラムだけでなく、これを『女性だけの問題』と矮小化してしまう組織の構造や、風土そのものを変革する施策が必要です」(來田教授)
もちろん、長年「当たり前」とされてきたジェンダー規範が変わるには、どうしても時間がかかる。それだけに、今回のLOCOKのように、プロクラブや企業チームが積極的に女性監督・コーチを起用し、包括的に育成していく動きは、停滞する現状を打破する一手になるのではないか。
「クラブの経営母体やスポンサー企業が問題の根幹をどこまで理解し、そこに財源を投資しようとしているか。本当の意味でジェンダー平等が進むかどうかは、そこにかかっています。チームによっては、まずは注目を集めるという戦略的側面から女性監督を立てるケースもあるでしょう。だとしても、社会を変える大きな一つのきっかけにはなります」(來田教授)
女性エリートコーチが増えることは、次世代のロールモデルを生み出し、女性アスリートの心身に対する医科学的なアプローチを前進させるだけではない。「女性は男性アスリートを指導できない」というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を打破することにもつながっていく。
「選手がエリート化するほど『女性には指導できない』と見なされるイメージを払拭できれば、女性だけでなく、指導者の多様性が増す入り口にもなります。まずは、女性指導者が女子チームの競技成績をしっかりと上げる。そして周囲から『彼女の指導哲学はどこでも適用できる』と正当に評価されれば、いずれトップクラスの男子選手を指導する女性も出てくるでしょう。本当の意味でエリートコーチの男女平等を達成するには、このプロセスを地道にたどるしかありません」と來田教授は指摘した。
「今はまだ、女子選手を教える女性の指導者すら少ない状況です。いつか、世界に通用する競歩の女子選手を育てたい」
就任に際し、そう決意を口にした岡田監督。誕生したばかりのクラブチームと彼女が共に踏み出すこの小さな一歩も、日本スポーツ界の景色を塗り替える、変革の足音の一つになるはずだ。
(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

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