「自分を盛らない」アリサ・リウの生き方 自然体を貫く「新時代の金メダリスト」誕生の価値

10代選手が抱えるフィギュアスケート特有の課題
小塩「今でこそ自由にスケートを楽しんでいる印象のアリサさんですが、一方で14~16歳の頃は周囲の期待に応えるためにスケートをずっとやっていた、と話しています」
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鈴木「彼女は天才です。14歳で4回転ジャンプとトリプルアクセルを飛んだのですが、それは衝撃的なことです。当時、アメリカのフィギュアスケート界に現れたスターの誕生で、ご両親をはじめ全米の期待を一身に背負う存在だったんです」
小塩「なるほど。とても早い段階から、周囲の大きな期待を背負う存在だったのですね。外から見れば順調に見えるアスリートであっても、その内側では、周囲が思う以上に大きな重圧や葛藤を抱えていることがあります。そうしたなかで、17歳で一度競技から離れたというのはとても印象的です」
鈴木「私も(2022年の)北京五輪後、潔く競技をやめた時は驚きました。しかも、2年後に再びリンクに戻った彼女は以前とは全く異なるスケーターになっていた。高得点を狙える高度なジャンプにこだわるのではなく、『自分はどう滑りたいか』や『アーティストである自分』にフォーカスしていました」
小塩「彼女が復帰後に大きく変わって見えるのは、一度競技から離れた時間のなかで、『自分は何のために滑るのか』と改めて向き合ったことが関係しているのかもしれません。もちろん、その背景にどのような経験があったのかを外から簡単に決めつけることはできませんが、自分なりの納得を持って戻ってきたことは、演技やたたずまいからも伝わってくるように感じます。
アスリートにとって一度競技から離れることは、決して後退ではなく、自分と競技との関係を見直す時間になることがあります。少し距離を取ることで、結果や期待からいったん離れ、『自分は本当は何を大切にしたいのか』を考え直せることもあるのだと思います」
鈴木「確かに一回外に出てみると、それまで中に浸かっていた世界を俯瞰で見られるようになり、改めて競技の魅力に気づけます。おそらく彼女は、自分にとって心地の良いスケートへの向き合い方を見つけたのではないでしょうか。
実はアリサのティーン時代の話は、今、フィギュアスケート界の若年層が抱える問題と非常に似ていると感じています。フィギュアスケートでは選手と保護者との距離が非常に近く、いつまでも保護者が練習を逐一監視し『自分がいないとダメだ』と思い込んでしまう。そうなる理由の一つに競技の特性があります。多くのスポーツは高校生ぐらいになると送り迎えもしなくなり、自然と親から離れます。ところがフィギュアスケートの場合、金銭面の負担を含め、離れるのが難しい」
小塩「なるほど。親子の距離が近いまま競技生活が続きやすい環境なんですね。もちろん、それ自体が悪いわけではありませんが、距離が近いからこそ、支えることとコントロールすることの境目が見えにくくなることもあるのかもしれません」
鈴木「そうなんです。私は現在、振付師として10代の選手とも接していますが、第三者的立場なので、コーチや親御さん、そして選手からも相談を受けることがたくさんあります。親御さんはリンクサイドで練習もずっと見ていますが、氷の上には入ってこられません。ですから練習中のふとした瞬間に、選手が本音をポロッと漏らすことがあるんですね。
なかでも『お母さんからのプレッシャーがすごすぎて、何のためにスケートをしているのか分からなくなってしまった』という悩みはとても多い。そのうちポロポロと泣き出して『本当はスケートについて、いろいろと言われたくない』『弱いと言われ続けて、試合に出るのが怖くなってしまった』と話し出します」
小塩「親御さんにとっては、時間や労力をかけて支えること自体が愛情であり、喜びでもあるのだと思います。ただ、その思いが強いからこそ、気づかないうちに『これだけ支えているのだから』という期待に変わってしまうこともあるのかもしれません。そうなると、親子双方にとって苦しい状況が生まれやすくなります」
鈴木「まさにそのようなことが現場で起こっています。家でも『どうして結果を出せないのか』と子どもに言うようになり、指導者にも『うちの子のことはちゃんと見てもらえない』と言う。そういう親御さんの子どもは親が怖くなり、練習中も私だけでなく、その背中越しに見える親の顔ばかり見てしまうんです。そうなると子どもたちは競技が嫌になってしまう」
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