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40歳の最年長リーグワン1部戦士が今も戦う理由 企業なら管理職世代、周りが言うモチベに「僕はピンとこない」

いつか訪れるプレーヤーとしてのノーサイド、安江が望むこととは【写真:荒川祐史】
いつか訪れるプレーヤーとしてのノーサイド、安江が望むこととは【写真:荒川祐史】

体調管理は「特別な何かをやるよりも、いかに体の疲れを取れやすくするか」

 そんな安江は、どのような体調管理で、40歳で迎えたシーズンもゲームメンバー入りを続けているのだろうか。

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「みんな特別なケアをしたり、パーソナルトレーナーとかも使ったりしていますが、僕は全くやっていないんです。これは本当に親のおかげなんですけれど、体が強く産んでもらえたことに感謝するしかない。もしかしたら、もう一つ上がるためには何か必要になるかも知れないですけど、いままでこれでやって来られたので、逆に変化をしないということも僕らしいのかなと思っています。特別な何かをやるよりも、いかに体の疲れを取れやすくするかというのが僕の中では一番ですね。強化していく部分というのはチームで出来ているので、いかに休めるかというのが。後は体と心のバランスだと思っているので。

 だから、せいぜい試合の何日前かにサウナに行ったり、交代浴は何曜日とか、試合の何日前に行くというルールは決めていますね。それが大事かなと思っています。トレーナーさんと話していても、まずは自分のことは分かっているだろうからと、僕自身に結構託されていることも多い。何か体に問題があれば僕からトレーナーのところへ行きますし、ここが張っているなと分かれば、そこをほぐしてほしいと相談したり。でも、何もなければ行かない。それがいいのか悪いのかわからないけれど、おじさん世代はあまり頻繁にはトレーナーさんのマッサージも受けてこなかったので」

 安江自身も「若い頃からそう出来ていたわけじゃない」と認めているが、20年近くトップステージでプレーを続ける中で、自分の体の塩梅を理解して、どう対処していけば最高のパフォーマンスを発揮出来るのか、維持できるのかを熟知していることも“長寿”には欠くことの出来ない秘訣のようだ。

 そんな長寿の恩恵?で、最近は試合会場で顔を合わせる同級生、同世代は、その大半が「選手以外」という肩書きでの再会ばかりだと苦笑する。

「試合前後に同じ世代の仲間たちと再会しても、みんなチームスタッフやコーチばかりなんです。『まだやってるのか』『まだやれただろう』という会話ばかりですよ。だから松岡選手なんかと会うと、自分も嬉しいですよね。代表やどこかのチームで特別な繋がりがあったわけじゃないですけど、会えば話しますし、彼の場合は社員として仕事を頑張りながらやっていますからね。すごいことですよ。体のケアとかでも、仕事があれば、プロである僕みたいに自由には出来ないですからね」

 3月22日の第12節トヨタヴェルブリッツ戦では150キャップ(公式戦出場数)を達成。チーム側でも特製Tシャツを作製するなど祝福されたが、40歳の老兵はこんなホンネも語ってくれた。

「節目で皆さんがセレブレーションしてくれて嬉しい気持ちはありますが、正直照れ臭くて。僕自身が絶対40歳までやるんだとか、150キャップを獲るんだとか目標を掲げてクリア出来たことじゃないですからね。まだそこはゴールじゃないなと感じています」

 いつが潮時なのかは、選手それぞれ異なるはずだ。自分がベストなプレーが出来ている“輝いている時”にピッチを去るのも美学なら、ピークを過ぎても可能な限りプレーを続けるのも生き様だ。チームでの現役続行はシーズン後の話し合いになるが、41歳で迎える来季も安江のプレーを続ける意欲は衰えを知らない。そんな“鉄人”に敢えてジャージーを脱ぐのはどんな時かと聞いてみた。

「僕自身が試合に出たいとか、若い選手と争って出たいと思ううちは現役でいたいと思いますね。それが、もう心が戦う準備が出来なくなったら、おそらくアスリートとして引退を決めなきゃいけないと思います。サッカーのカズさん(三浦知良)もそうじゃないですか。全盛期よりは間違いなく下がってきているだろうけれど、あそこまでやり続ける心の強さに何かを感じてくれるファンもいると思うんです。自己満足かも知れないけれど、ダサくならないうちにきれいに辞めるより、ダサくなっても続けるのが僕らしい」

 派手な引退セレモニーや儀式よりも、いつも通り戦い、ゲームが終われば仲間、対戦相手と互いを称え合うラグビーの“日常”が相応しい。いずれにせよこの40歳にとってジャージーを脱ぐのはまだまだ先のことになりそうだが、最後に、いつか訪れるプレーヤーとしてのノーサイドをこう思い描いた。

「試合が終わったら『やっさん、お疲れ!』と皆と一緒にビールでも飲めれば、それでいいかな」

■安江 祥光 / Yoshimitsu Yasue

 1984年8月25日生まれ。千葉県千葉市出身。帝京高でラグビーを始め、帝京大から日本IBM入り。神戸製鋼を経て、16年に三菱重工相模原へ移籍。2009年香港代表戦で日本代表初キャップを獲得。通算2キャップ。身長176cm、体重109kg。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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