40歳の最年長リーグワン1部戦士が今も戦う理由 企業なら管理職世代、周りが言うモチベに「僕はピンとこない」

モチベの言葉はピンとこず「ただ一日一日を負けないようにと考えていただけ」
安江は、同い年には日本代表、スーパーラグビーでも活躍したSH田中史朗(現東葛グリーンロケッツ・アカデミーディレクター)、早大時代から注目を浴びた矢富勇毅(現静岡ブルーレヴズ・アシスタントコーチ)、CTB今村雄太(元神戸―宗像サニックスブルース)らが注目を浴びた学年だが、その大半の選手がジャージーを脱いでいる。現役を続ける主な同級生は松岡、笠原雄太(日野レッドドルフィンズ=LO)と数えるだけになったが、安江に気負いはない。
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「みんな週末の試合へ向けて気持ちを作っていくのがしんどくなった、体がついていかないなどで引退を決めている。でも、僕自身は何か奮起しなければいけないとか、皆さんが言うモチベーションというのはあまりピンとこないんです。同級生にいろいろ有名な選手がいた中で、僕には特別に何かやりたいこととか、願望も正直なかったですし、ここまで出来るとも正直思ってなかった。ただ一日一日を負けないようにやっていこうと考えていただけなんです」
そんな思いで続ける現役生活だからこそ、年長記録という数字にもこだわらず、チーム内での特別扱いも求めない。チームの若手と一緒に同じメニューに取り組み、毎週末のゲームに備える毎日は20代、30代の時から変わらない。
「うちって、どのチームから見てもハードワークするチームなんです。その中で、僕が年齢を言い訳にして皆と同じメニューをやらないなんてあり得ないことです。ハードワークがチームの根幹なんです。だから、しんどくないですかとかよく聞かれるんですけど、あまりそこに対して思うことはないんです。グラウンドに立ってしまえばエイジ・イズ・ジャスト・ナンバー(年齢は単なる数字に過ぎない)ですから。不惑チームみたいに、赤いパンツを履いているからタックルされないとかはないですからね。僕の中では、チームの皆と切磋琢磨やらせてもらっているのがいちばん楽しくやれている。気負うことなくというのが、いちばん大きいことです」
安江が挙げた「不惑」は、トップレベルのラグビーは引退した選手が、50代、60代と年齢ごとにパンツの色を変えて、タックルなしなどのハンディキャップのある中でプレーしている高齢者チームのことだ。全国各地で不惑チームが活動して、定期戦や大会が開催されている。安江自身にとっては、そんな特別扱いされることも望まなければ、何歳までプレーするという目標もなく、トップレベルのステージで日々ラグビーに打ち込むことが喜びなのだ。
そんな40歳の選手をダイナボアーズの仲間たちはどう見ているのか。同じFWでチームのバイスキャプテンも務めるFL鶴谷昌隆は、こんな安江評を語っている。
「安江さんがグラウンドに立つと、僕らの安心感が全然違うんです。途中から入って来る試合が多いんですけれど、チームに落ち着きを与えてくれるプレーをしてくれるし、ラインアウトでもスクラムでも安定するなと感じています。チームって、それぞれセットプレーに癖があるじゃないですか。そこに、安江さんは経験からの引き出しが多いから、チーム毎にどう対応するかというのを僕らに話してくれる。僕はこのチームに4年前に来たのですが、そこから安江さんも年齢を重ねていてその影響は間違いなくある。でも要所でいいプレーをしてくれる。ああいうのを若い選手も身に着けて欲しいというプレーを見せてくれるんです」
鶴谷が語る「いいプレー」は、上位チームに挑む試合となった4月の静岡ブルーレヴズ、横浜キヤノンイーグルスとの連戦で見て取れた。途中から出場した安江が、絶妙のタイミングでラックに絡む「ジャッカル」をみせて相手の攻撃を寸断。トライや1対1のハードタックルのような派手さはなかったが、ゲームの流れを変えるためには価値のあるプレーだった。続く古巣のコベルコ神戸スティーラーズ戦では、途中出場した後半21分に密集サイドを突いての今季初トライもマークしている。先に挙げたジャッカルや、ボールを持ってのランというスピードと機動力を武器に過去には日本代表でもキャップ2を手にした安江だが、40歳となった自分自身をどう見ているのだろうか。
「昔はもっとボールを持って走りたいという思いはありました。どちらかというと足の速いHOで売ろうとしていたので。でも、今は若い頃に比べればスピードは少なからず落ちているとは思います。悲しいかな、ずっと同じようなプレーは出来ない。でも、それで自分の武器が無くなった訳じゃない。なので、ボールの争奪のようなプレーに徹するようになっていますね。今の武器は何なのかと自分自身にフォーカスして、変えていかないとね。痒いところに手が届くようなプレーとか、ゲームの綾になるようなプレーとかね。そう感じながらプレーしています」