10代で入った陸上女子代表「雰囲気が悪かった」 敵選手を助ける理由になった寺田明日香の初合宿
陸上女子100メートル障害の元日本記録保持者・寺田明日香(ジャパンクリエイト)が15日、都内で会見し、35歳の今季限りで第一線を退く意向を表明した。「ママアスリート」として脚光を浴び、2021年東京五輪では日本人21年ぶりの準決勝進出を果たすなど活躍。近年の日本女子ハードル界の飛躍を牽引した。ライバルにも分け隔てなく情報共有。そのきっかけになった過去を明かした。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

寺田明日香が第一線退く意向表明
陸上女子100メートル障害の元日本記録保持者・寺田明日香(ジャパンクリエイト)が15日、都内で会見し、35歳の今季限りで第一線を退く意向を表明した。「ママアスリート」として脚光を浴び、2021年東京五輪では日本人21年ぶりの準決勝進出を果たすなど活躍。近年の日本女子ハードル界の飛躍を牽引した。ライバルにも分け隔てなく情報共有。そのきっかけになった過去を明かした。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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主役は登場前から泣いていた。
会見冒頭に流れたのは過去のレース、家族との日々などを収めた特別映像。「最初から泣かせに来てる。ズルいよね!」。現れた寺田はウェアの袖を濡らした。9月の東京世界陸上を目指し、日本選手権など代表選考会に出場するのは今季限り。「情緒不安定です。明るく説明したい。でも、しっかり泣く。(涙腺の)ダムが崩壊しました」
マネージャーの夫・峻一さん、小学5年の長女・果緒さんも会見を見守った。愛娘から「22年間、お疲れ様でした」と照れくさそうにサプライズの花束贈呈。「娘が5年生になるまで現役だと思っていなかった」。親子の記念撮影はバッチリ笑顔で決めた。

全国高校総体、日本選手権をともに3連覇。将来を期待されたが、13年に怪我や摂食障害などで現役を一度引退した。14年に結婚・出産を経て、16年夏に7人制ラグビ ーに挑戦。陸上に復帰した19年に日本記録を樹立し、21年にも2度更新した。
「ママアスリート」として脚光を浴びながら種目を牽引。しかし、輝かしい実績にも「大した成績を残せなかったのは心残り」と漏らした。結果よりも胸を張るのは、近年の日本女子ハードル界で記録が飛躍的に伸びたことだ。現日本記録保持者・福部真子など悩み相談を受ければ、ライバルであっても惜しみなく情報共有。「明日香さん」と若手に慕われた。
「人生を豊かにしてくれたのが陸上競技だった。やりたいことはある程度できたのかな。代表の雰囲気づくりだったり、『戻ってきてくれてありがとう』と言ってもらえたり。戻ってきた意味を見出せたのは、悔いが残らないところ。陸上競技場に行って、具合が悪くならない自分でいられたのは大きなこと。陸上競技の良さを自信をもって伝えられるようになったのは悔いがない」
後輩たちに負け、記録を抜かれると、悔しい反面、喜べる理由がある。きっかけは10代で自身が初めて日本代表に入った頃に遡る。
「その時、日本代表の女子の雰囲気が悪かったんです(笑)。18、19歳の時、合宿が終わって『もう行きたくない』と思ったんですよ。それってトップを目指す中で不本意なこと。目指していたところに入ったのに、思っていたものじゃない。『じゃあ、何のために入ったんだ』と。私は下の世代にそう思わせたくなかった。
私が上の世代になった時に、後輩たちが『あの日本代表に入りたい』『寺田さんと一緒に合宿をしたい』と思ってもらえる選手になりたいと思いました。そう思ってもらえる雰囲気をつくらないといけない。だから、困っている選手にも力を貸したいと思ってやってきた。
個人競技で争う関係だけど、世界を見ると日本女子の短距離は力が及ばない。それを引き上げるには一人では難しいし、全体が上がらないと。良いことも、悪いことも独り占めしたくない。みんな困っているし、みんなで困った方がみんなで引き上げられる。私も勉強させてもらった」
「引退」の2文字は使わない。「今後は大人や子どもと本気で走っていきたいので」。世界陸上以降の活動は異例のプランを掲げている。