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ドイツなら指導側が「クビ」 高校サッカーのロングスロー流行に見る育成環境の問題点

敵陣深い位置で得たスローインの場面で、助走を長く取った選手が力一杯ボールを相手ゴール前へ投げ込む――。“ロングスロー”はサッカーにおけるセットプレーの1つの形として、先日行われたカタール・ワールドカップ(W杯)や各国プロリーグの試合でも見られる光景だが、その頻度は1点を争うゲーム終盤など限定的だ。一方、日本の高校サッカーでは近年、ゴールを奪う確率を高めるための手段としてロングスローがブームになっている。育成年代で多用することの弊害はどこにあるのか。後編ではドイツの育成年代を引き合いに、日本特有と言える高校サッカーの環境面の問題点を識者が指摘する。(取材・文=加部 究)

高校サッカーで流行するロングスロー指導の問題点とは?(写真はイメージ)【写真:Getty Images】
高校サッカーで流行するロングスロー指導の問題点とは?(写真はイメージ)【写真:Getty Images】

高校サッカーと「ロングスロー問題」後編

 敵陣深い位置で得たスローインの場面で、助走を長く取った選手が力一杯ボールを相手ゴール前へ投げ込む――。“ロングスロー”はサッカーにおけるセットプレーの1つの形として、先日行われたカタール・ワールドカップ(W杯)や各国プロリーグの試合でも見られる光景だが、その頻度は1点を争うゲーム終盤など限定的だ。一方、日本の高校サッカーでは近年、ゴールを奪う確率を高めるための手段としてロングスローがブームになっている。育成年代で多用することの弊害はどこにあるのか。後編ではドイツの育成年代を引き合いに、日本特有と言える高校サッカーの環境面の問題点を識者が指摘する。(取材・文=加部 究)

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 高校サッカー界で盛んにロングスローが飛び交っている。足ではなく肘にテーピングをして、ピッチに立つ選手まで現れたほどだから看過し難い状況である。

 複数のJクラブで監督経験を持ち、現在は相生学院高校で指導に携わるゼムノビッチ・ズドラブコ氏が言う。

「ゲームの流れを読み、いかに数的優位を作り、アイデアやテクニックを発揮していくか。さらに高校生年代になれば個々のポジションに即したトレーニングも必要になります。この年代にはやるべきことが山積しています」

 同氏は日本の高校1年生に相当する16歳の時に、セルビア屈指の名門レッドスターでデビューを飾ったデヤン・スタンコビッチの例を出した。

「当時の監督は、ボランチのスタンコビッチに難問を出してピッチに送り出しました。『漏れているところをしっかり締めて欲しい』と伝えたんです。例えば『10番をしっかりと見てほしい』なら分かりやすい。でも16歳のスタンコビッチは、どこが危険なのかを自分で判断してプレーしなければならなかった。しかし監督は、この難題を解決してほしいと願って送り出したわけです」

 ある試合では、攻撃で2対1の局面を迎えた。ドリブルするスタンコビッチはマークする相手と対峙し、右にはフリーの味方がいた。だがスタンコビッチは、自ら仕掛けてゴールを奪う。

「勇気と責任を持って、ここはオレがやる、と決断した。マークする相手以外にカバーリングがいないなら、自分で突破すればビッグチャンスになると考えたわけです。日本なら、右でフリーの味方にパスをしないことを怒られていたかもしれない。ただ、ここで怒られていたら、次からは勝負をしないで安全な選択をしてしまう。こうしてサッカーでは、いろんな状況に応じた判断が大切になるわけです」

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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