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ドイツなら指導側が「クビ」 高校サッカーのロングスロー流行に見る育成環境の問題点

勝つことで「学校の評判が高まり選手も集まる」

 一方でセットプレーは、最も暗記に近い形で教え込むことができる。ゼムノビッチ氏は続けた。

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「パターンを決めて、誰がどこに入っていくか。指導者も教えやすいし、選手たちも覚えやすい。でも相手がきちんと対処すれば、それだけでゴールを奪うのは難しくなります」

 将来日本代表を背負うような選手を育てたいと、プロ選手の養成をテーマにした相生学院高校で総監督を務めている上船利徳氏は、ロングスローが頻発し、各校がそのためのトレーニングや対策に時間を割く現状を危惧する。

「日本代表が高さで勝負するべきかと100人に問えば、おそらく100人全員が反対するはずです。もっと日本は、個々の選手たちがファーストタッチやパスの質を高めたり、判断力や理解力を高めていったりする努力を重ねていかなければ未来はないと思います」

 やはりロングスローに象徴される短絡的な勝利至上傾向は、学校単位での競争が過熱化し、指導者が本質を見失った結果だと見るべきだろう。

「Jクラブのユースは、良い選手を育ててトップに昇格させることが第一目標になる。でも高校の場合は育てても、その先がない。何が良いのか、と考えると勝つことになり、それが学校の評判を高め選手も集まって来てビジネスになる。また1つのグラウンドに100人以上の部員がいてコーチも少ない状況なら、個々の適性に合わせたトレーニングより、みんなで簡単なことに走りがちになるのでしょうね」(ゼムノビッチ氏)

 さらにドイツのS級ライセンスを持ち、アルミニア・ビーレフェルト時代にはトップチームのヘッドコーチとユース監督を兼任した鈴木良平氏が指摘する。

「本来、最も成長していく時にロングスローのトレーニングなどに時間を割かれたのでは、選手たちにとってこれほど迷惑なことはありません。3年間というスパンで、結果が求められる学校スポーツの歴史の中で生まれた悪弊でしょう。勝てば学校の知名度や偏差値が上がる。すでに目的がサッカーの向上とはかけ離れてしまっています。欧州でも南米でも、良い選手が現れれば途中でビッグクラブへ移籍していくのが当たり前ですからね」

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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