[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

「走れる作家」になりたかった私が文章を書き残す理由「だから、生きていた痕跡を」【田中希実の考えごと】

「今、私は必死に走っている」【写真:奥井隆史】
「今、私は必死に走っている」【写真:奥井隆史】

なぜ、書くのか「生きていた痕跡を残すことにこだわっていた」

 夢は叶わない……。

【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら

 その時は、主人公にマラソンを強要する社長が、なぜかジョギングのことを「ジョッギング」と言うことに内心笑ったり(『純白のライン』)、主人公が本場のフランスパンにバターを載せて食べるのが本当に美味しそうだったり(『金色の風』)、他愛無いことの方に惹かれていたが、どの話の主人公も、夢を諦めた過去を持っていた。

 それで私の心には、あまり高いところは目指すもんじゃないと、その時無意識に刻み込まれたのだろう。主人公が直面した、壁どころか、ぽっかりと口を開けた底の見えない穴。その穴を本当に不気味だと思った。

 ただ、だからこそ、生きていた痕跡を残すことにはこだわっていた気がする。このまま忘れ去られるのは嫌だ、昔から続けている日記をこれからも書き続ければ、アンネ・フランクのように後世に残るかもしれない。何者にもなれなくても、考えごとは書き残したいと思っていたら、いつのまにか筆まめになっていた。

 今、私は必死に走っている。小学生の頃思っていたスタイルとは違うが、思ってもない方向で、生き残れている。そして、文章もこうして残せている。

 自分なりに、小学生の時からマイペースに走り続けてきたので、その延長線上で日本記録を出しはじめた時に、「ニューヒロイン」とか「新星」とか言われたことには違和感を覚えた。逆に今となっては、勝つことが当たり前のように思われることもある。しかし、誰しも輝く瞬間のあるなしに関わらず、ずっと「いる」し、それは当たり前のことじゃない。

 ヒーローなんていないとも言えるし、誰しもヒーローだとも言える。

 周りに見えている自分とは違う自分の方が実は多いし、自分でも、自分の考えに掴みどころがなかったりする。不変的な偶像なんてありはしない。だからこそ、取り止めのない考えや、忘れかけていた記憶をこれからの連載で書きとめておきたいし、世の中の隠されたヒーローやヒロインたちに読んで頂き、心の交流ができれば嬉しいと思う。

(田中希実 / Nozomi Tanaka)

1 2 3

田中 希実

 1999年9月4日、兵庫・小野市生まれ。ランニングイベントの企画・運営をする父、市民ランナーの母に影響を受け、幼い頃から走ることが身近にある環境で育った。中学から本格的に陸上を始め、兵庫・西脇工高に進学。同志社大を経て、豊田自動織機へ。2023年4月からNew Balance所属となり、プロ転向した。東京五輪は1500メートルで日本人初の8位入賞するなど、複数種目で日本記録を保持する。趣味は読書。好きな本のジャンルは児童文学。とりわけ現実世界に不思議が入り混じった「エブリデイ・マジック」が大好物。公式インスタグラムは「@nozomi_tanaka_official

W-ANS ACADEMY
ポカリスエット ゼリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬
スポーツ応援サイトGROWING by スポーツくじ(toto・BIG)
DAZN
Lemino
スマートコーチは、専門コーチとネットでつながり、動画の送りあいで上達を目指す新しい形のオンラインレッスンプラットフォーム
THE ANSWER的「国際女性ウィーク」
UNIVAS
N-FADP
#青春のアザーカット
One Rugby関連記事へ
THE ANSWER 取材記者・WEBアシスタント募集