[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

「走れる作家」になりたかった私が文章を書き残す理由「だから、生きていた痕跡を」【田中希実の考えごと】

陸上女子中長距離の田中希実(豊田自動織機)がコラムを執筆する。3種目で日本記録を持つトップランナーである一方、スポーツ界屈指の読書家としても知られる23歳。達観した思考も魅力的な彼女は今、何を想い、勝負の世界を生きているのか。

トラックを駆け抜ける田中希実、なぜ書きたいという想いが芽生えたのか【写真:Getty Images】
トラックを駆け抜ける田中希実、なぜ書きたいという想いが芽生えたのか【写真:Getty Images】

本人執筆の連載「田中希実の考えごと」プロローグ「走れる作家になりたかった」

 陸上女子中長距離の田中希実(豊田自動織機)がコラムを執筆する。3種目で日本記録を持つトップランナーである一方、スポーツ界屈指の読書家としても知られる23歳。達観した思考も魅力的な彼女は今、何を想い、勝負の世界を生きているのか。

【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら

「THE ANSWER」では、陸上の話はもちろん、日常の出来事や感性を自らの筆で綴る特別コラム「田中希実の考えごと」を始動する。長年の日記によって培われた文章力を駆使する不定期連載。今回はコラム開始に先立ち、プロローグ「走れる作家になりたかった」をしたためた。なぜ、書きたいという想いが芽生えたのか。幼い頃に夢見た“走る×書く”という唯一無二のスタイルについて、独自の感性をもとに明かす。

 ◇ ◇ ◇

 この度、連載のお話を頂いた時、すごく不思議な感じがした。

 私は小学生の頃、「走れる作家」になりたかったから、奇しくもその夢に近い者になれたのではと思ったからだ。

 今となっては、作家になれないのは分かっている。他人に興味がないし、頭が硬く想像力もない。自分の経験をもとに、自分の考えを綴るだけで精一杯。小学生の頃に書き散らかした「お話」を読んでみると、お気に入りの事象をただ詰め込んだだけで、当時の自分としても、自己満足とはっきり分かる内容だった。

 書くこと一本でやっていくというのは半端なことでなく、ともすれば書くことや、読書も、好きだったはずが嫌いになってしまうのではないか。それは避けたかった。

 そこで「走れる作家」ということだが、この「走れる」という部分も、今の自分が思う「走れる」とは大分方向性が違っていた。

 当時はとにかくスピードがなく、100メートル20秒が切れないので、スタートは必ず出遅れる。しかし、そのままのペースで走り続けられるという謎の特性があったので、校内では気づいたら一番になれた。しかし、いくら同じペースで走り続けられたとしても、学校の一歩外に出たら、ランニングクラブでトレーニングしている子たちには歯が立たないのだ。みんなどうやって「速く」走っているのか、見当もつかなかった。

 そこで私は、マラソンなら大人になればできるだろうと、短期的な目標を放棄した。

 もしかしたら母のように、ある程度大きなマラソン大会で結果を出せれば、色んな賞品がもらえたり、海外に派遣してもらえたり、走ることで生きていくことだってできるんじゃないだろうか。

 また母は、走る以外は子供のいる主婦でもあった。いわゆる「ママさんランナー」の先駆けだった。子供ができても走り続けることは、すごいことなんだと、周りの大人たちの口ぶりで私も理解していた。なら私も、もし子供ができても走り続けよう! 走れて、うまくすれば世界中回れて、子供がいて、お話も書ける! 専門分野はなくても、幸せな人生が歩めそうだと思った。

1 2 3

田中 希実

 1999年9月4日、兵庫・小野市生まれ。ランニングイベントの企画・運営をする父、市民ランナーの母に影響を受け、幼い頃から走ることが身近にある環境で育った。中学から本格的に陸上を始め、兵庫・西脇工高に進学。同志社大を経て、豊田自動織機へ。2023年4月からNew Balance所属となり、プロ転向した。東京五輪は1500メートルで日本人初の8位入賞するなど、複数種目で日本記録を保持する。趣味は読書。好きな本のジャンルは児童文学。とりわけ現実世界に不思議が入り混じった「エブリデイ・マジック」が大好物。公式インスタグラムは「@nozomi_tanaka_official

W-ANS ACADEMY
ポカリスエット ゼリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬
スポーツ応援サイトGROWING by スポーツくじ(toto・BIG)
DAZN
Lemino
スマートコーチは、専門コーチとネットでつながり、動画の送りあいで上達を目指す新しい形のオンラインレッスンプラットフォーム
THE ANSWER的「国際女性ウィーク」
UNIVAS
N-FADP
#青春のアザーカット
One Rugby関連記事へ
THE ANSWER 取材記者・WEBアシスタント募集