五輪人気からの「低迷」と戦うソフトボール界 足を運んで見るべき上野由岐子の緊張感
せり出したベンチは360度壁がない、選手の表情が見えるのも貴重な機会
一つは三塁に走者を置いてからの攻防。前進守備の内野手と打者の距離は、危険を感じさせる近さだ。スクイズか、ヒッティングか。ベンチワークだけでなく、打者とバッテリーの細かな心理戦も垣間見えた。三塁強襲のライナーに野手が跳びつく。まばたきの間にアウトが増えた。上野攻略に牙をむくライバルの奮闘も見逃せない。
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ソフトボール専用球場ではなく野球場で開催される場合、ベンチが野球のファウルゾーンにせり出した形で行われる。360度壁がなく、時には会話までスタンドに聞こえそうな距離。選手の一挙手一投足がよくわかるのもソフトボールならではの光景だ。この日ベンチスタートだった上野は、序盤はリラックスした表情。6回の登板までに集中力を高め、徐々に緊張感が増していく過程も間近で見られた。子どもたちにとっても貴重な光景になるはずだ。
試合前は約40人の小学生がチアダンスを披露。選手たちは手拍子で一緒になって盛り立てた。“お姉さんっぽさ”が溢れた温かい眼差しもよく見える。内野席のスピーカーから流れたのはブラスバンドの音声。コロナ禍で無観客になっても、さながら甲子園のアルプススタンドのようなお祭りムードを作り上げていた。
リーグ公式サイトでは、無料のLIVE中継が実施されていた。ソフトボールは24年パリ五輪の正式種目から除外され、28年ロサンゼルス五輪での復帰が目標。来春に発足する新リーグ「JDリーグ」のマウンドにも、上野は立ち続ける。
来年7月で40歳。「みんなが期待している以上に自分もパフォーマンスを見せることを全うしたい。球場に足を運んでもらえるように」。観客も気を抜けないソフトボール。もしかしたら、金属バットが破壊される瞬間にも出会えるかもしれない。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)