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早大アメフト部QBが異例のプロ野球挑戦 2つの「甲子園」に出場した元134km右腕の覚醒

ピッチングストラテジストの内田聖人(左)が見る吉村のポテンシャルとは【写真:中戸川知世】
ピッチングストラテジストの内田聖人(左)が見る吉村のポテンシャルとは【写真:中戸川知世】

2つの競技を経験したメリット、異例の大学院卒のプロ野球選手へ

 その能力は気鋭のピッチングストラテジストも評価する。千賀滉大(ソフトバンク)ら多くのプロ野球選手も参加する野球パフォーマンスオンラインサロン「NEOREBASE」を主宰し、吉村の早実野球部の先輩にあたる内田聖人は「野球における成長期がやっと今、来ている感じ」と評する。

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 投球を週1回程度見ており、「目標の150キロを出せる権利は持っているし、伸びしろは凄いものがある」と潜在能力を評価。「投手としてはオーソドックスなタイプですが、時代のトレンドや今必要なボールを頭で理解している。いつの時代でも生きていけるタイプ」と太鼓判を押す。

 そもそも米国でアメフトと野球の両立が成り立つのは、季節ごとに競技を変えるマルチスポーツという概念が浸透しているからだ。何事も一つに集中し、やり遂げる文化が根付いている日本にはない発想。吉村は「2つの競技で得た感覚を互いに生かせる」と、そのメリットを語る。

「僕は野球ならそれなりに成長できたけど、一歩外の世界に出たらゼロからのスタート。自分がいかにちっぽけな存在かを知ることが戒めになり、アメフトでいろんな人に教えをもらった経験が今につながっている。失敗から挑戦し、学んでいくサイクルは新しいジャンルだと回しやすいです」

 そして、吉村がもう一つこだわることが勉学だ。大学は基幹理工学部情報理工学科に在籍した理系。卒論は「相槌を打つチャットボットがブレーンストーミングに与える影響」。AIの技術で人間の心理にアプローチし、チームビルディングに結びつける研究をスポーツ界に将来生かしたいという。

 この春から早大大学院に進学。大学院出身選手としては福田岳洋(元横浜)が京大大学院の在学中に独立リーグを経てNPB入り(大学院は中退)した例はあるが、修了してのプロ入りとなれば、こちらも異例。今秋のドラフトで指名されたとしても、来年以降に論文を書いて修了する意向だ。

野球とアメフト、2つの競技で得た経験を力に吉村はプロ野球を目指す【写真:中戸川知世】
野球とアメフト、2つの競技で得た経験を力に吉村はプロ野球を目指す【写真:中戸川知世】

 現在は週1~2日のチーム練習のほか、個人トレーニングとオンライン授業をこなす毎日。当面の目標は8月に行われる都市対抗予選で企業チームを抑え、NPBのスカウトの目に留まること。「プロに行けるなら育成でも構いません」と言う。

 高校野球と大学アメフトで「甲子園」を経験。別の競技に打ち込み、ポテンシャルを開花させた右腕がもしプロ野球選手になれば、スポーツ界に新たな可能性を示す。「『初○○』という肩書きがつくのは好きなこと」という吉村にとって、最高のモチベーションになる。

 異色のチャレンジのスタートとなったのは、野球で得た記憶だった。

「高校2年生の夏、試合には出ていないけど、あの甲子園があったから、自分の生きる道を知った。あの幸せな時間がなければ、アメフトもやっていないし、今こうして野球も続けていない。清宮のホームランに球場が揺れる感じ。そのくらいスポーツが人の心を動かせると知りました」

 アメフトで得た経験が異色のチャレンジを支えた。

「本気というのは、ただ目の前に一瞬に一生懸命になることではなく、目標に対して計画を綿密に立てた上で没頭すること。それをアメフトを通じて知りました。こういう挑戦を見た誰かの活力になってくれればと思っています。プロ野球選手はそれだけ影響力の大きい存在なので」

 夢への道は一直線でなくてもいい。それぞれの場所で見た景色を力にして、22歳・吉村優は道なき道をゆく。

■吉村 優 / Yu Yoshimura

 1998年11月10日生まれ、東京・八王子市出身。私立国立学園小4年から「つくしシャークス」で野球を始める。早実中の2年生で投手として都大会準優勝。早実高では2年夏に甲子園4強、エースを務めた3年夏は西東京大会8強。早大はアメフト部に所属し、2、3年生で甲子園ボウルに出場。無類の本好き。アメフト部時代の挫折を支えたのはナポレオン・ヒル「思考は現実化する」。「毎週月曜は1時間、本屋にこもって気になった新刊をチェックします」。現在は早大大学院に通い、社会人クラブチーム「REVENGE99」に所属。178センチ、83キロ。右投右打。ツイッター「@yuyoshimura2」。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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