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かつては人前で話すことがタブー 生理の風潮を変えた発信から7年、向き合い続ける月経問題の「今」――競泳・伊藤華英「女性アスリートとニューノーマル」

転機になった1本のコラム、当時タブー視されていた生理に言及

 伊藤さんが生理について活動を始めるきっかけは1本のコラムだった。

 スポーツ総合誌「Number」のウェブサイトで自ら執筆した記事。「女子選手が必ず直面する思春期問題。伊藤華英が語る生理と競技の関係。」というタイトルで、自身の経験をもとにした10代の女性アスリートが直面する体の変化、今でこそ知られるようになった月経前症候群「PMS」などに触れた内容。さらに2016年リオデジャネイロオリンピックでリレーに出場した中国の競泳女子選手が「生理中で自分の泳ぎができず、チームメートに謝った」と発言したことが話題になったことも紹介した。

 その内容は当時からすると衝撃的で、取材申請が殺到するなど大きな反響を呼んだ。

 のちに、自身が23歳で出場した北京オリンピックが生理の周期と重なるため、正しい知識がないまま初めて服用したピルが体質に合わず、体重が4~5キロ増えるなど、大会本番でコンディションを落としたという体験も明かし、次第と発信する機会が増えていった。

「私が書くコラムは見る人は見るけど、そんなに影響はないだろうという気持ちで実は書いたんです。それが、いろんな方に見ていただいてびっくり。社会的にいろんな意見がある内容は発信しにくいし、専門性が高いので悩みましたが、自分のことだったら嘘はないかなと。逆に、生理は自分が悩んでいたし、自分事としてすごく身近な存在。それまでに世の中で発信されているかどうかの考えもなく、自分の気持ちの整理を兼ねて書いた感じがしますが、反響の大きさは戸惑いの方が大きかったです」

 コラムに記した通り、中国の女子選手が公の場で生理について発言したことは、同じアスリートとして驚きだったという。

「自分のコンディションの変化の中に生理は入っていなかったんです。例えば、練習がうまくいかなかった時、生理前だった。でも、生理前は個人的なことだから、練習ができないせいにしない。やっぱり言いたくないし、負けた感じになる。みんな来るものだから、自分で調整していると思っていました。だから、それを口にしたり、何かの理由にしたりもない。指導者とも生理で体の感覚がどうなっているかの議論まで行かず、私自身も『3日くらい経てば治るかな』という認識で過ごしていました」

 反響の大きさで、発信する責任が芽生えたのも事実。これをきっかけに考えが変わった。

「生理について話せる範囲が広くなくて、自分自身のキャパシティも狭いと思いました。自分の体験は話せるものの、取材をしていただくようになって、それだけ反響が広がれば、女性の記者の方にお話をする場合にも、質問がある程度、専門性が高くなっていく。さらに、若い方から来る相談は結構リアルで、結構シビアで。これはひと言間違えたら、大変なことになってしまうなと。自分自身もそんなに知識をマスターしているわけでもないので、もうちょっと勉強した方がいいなと思い始めました」

 2017年に東京大学医学部附属病院で国立大学病院初の「女性アスリート外来」を開設した医師・能瀬さやか氏や「スポーツとジェンダー」の権威である中京大教授・來田享子氏ら専門家を訪ねて回り、見識をアップデートさせた。その中で、自分が持っていた知識の誤りも多く知った。

「生理が来ていても起こる病気があるし、来てなくても起こる病気がある。過多月経がなぜ駄目なのかも知らなかった。私はただ生理が順調に来ていればOKという認識しかなかったので、実は違うことも知り、なぜそうなっているのか考えを改めました。国際オリンピック委員会が提唱しているRED-S(スポーツにおける相対的エネルギー不足)という概念がある。女子選手のエネルギー不足への警鐘が慣らされている国際的な動きも初めて知りました。全然知らなかったし、発見しかなかったですね」

 記事を発信してから7年。前述の通り、今でこそ「女性アスリートのコンディショニング」の旗手になっているが、もともとはライフワークにしようという考えなどなく、コラムを発信した当初、具体的なビジョンは「全く描いていなかった」。世間の求めに導かれるようにして今がある。

「2017年から東京オリンピック・パラリンピックの仕事(東京五輪組織委戦略広報課の担当係長の任務)もあり、何かするにしてもこの東京2020が終わってからじゃないとできないと思っていました。でも、コロナ禍もあり、社会も大きく変わってきたので、流れていく日々と社会の動きに翻弄されていった感じですが、充実してやらせてもらっています」

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