競泳界の名将も「絶対大切」と賛同 日本の女性コーチ育成に「競技横断ネットワークを」
「私たちの問題」のはずが「女性たちの問題」と思われる現状
伊藤「Our problem(私たちの問題)として考えなければいけない、WE(私たち)にならなければいけないはずなのに、『女性たちの問題』だと思っているところがあります。ですから競技団体の方に、『女性コーチを育成し、能力の発揮できる土壌作りに取り組めば、競技そのものが絶対にもっと盛り上がりますよ』と言い続けなければいけない。
本当にしんどかった重い生理痛 婦人科医に相談、服用し始めたピルが私には合った――サッカー・仲田歩夢選手【私とカラダ】
『女性たちのため』ではなく『自分たちのため』になるんだからやりましょう、というところまでに持っていきたいと思っています。これが今、僕たちが抱える一番大きな課題です」
井本「強化にも、育成にも、普及にも、全てにおいてジェンダーバランスを改善したら、もっと良くなるはずなのに、ジェンダー平等政策がメインストリームになれないのが本当に歯痒いですよね。ジェンダーの議論は隅に追いやられ、ガバナンスとか、強化委員会とか、普及委員会とかには入っていかない。本来は横断的に、全ての議論に入ってこなければいけない問題です」
伊藤「女性委員会を作る動きはありますが、その枠だけで議論が終わっているのが現状ですよね。他のところ、例えば指導者のところに、まったく話が来ていません。女性委員会での議論はもっと上の、例えば理事会レベルから全体に降りていき、各部会、委員会で話し合わなければいけないのに、とりあえず女性委員会を作っておく、という感じになっていると感じます」
井本「その通りですね。私、最終的には男性、女性って言いたくないんです。今、ジェンダー平等とか、スポーツ界の女性の地位向上を、などと口に出すと、フェミニストだとカテゴライズされるのが嫌なんですよね。でも今は平等じゃないから言わざるを得ない」
伊藤「それはなぜ、理事会などの意思決定層に、女性理事クオータ制を採用しなければいけないのか、というのと同じ話ですよね。今はそうしないと、女性の数が男性に全然追いつかないからやる。ずっとやらなければいけないのではなく、そもそもあるバイアスをなくしていくためのプロセスであり、将来的にはクオータ制がなくても平等になるよう、今は必要なんです、ということです」
井本「今日は男性の伊藤先生に、私たちが普段思っていることを思いっきり代弁して頂いたのでスカッとしました。みんなが幸せになるために、ジェンダー平等を、男性が先頭に立って進めなければならない。そういう男性がもっともっと増えますように。今日は本当にありがとうございました」
【前編】日本に女性エリートコーチが少ないのはなぜ スポーツ界で固定された“男女の構図”とは
【中編】女性コーチが増えない日本のスポーツ界 「女性は男性を教えられない」は先入観?
■伊藤 雅充
日体大体育学部教授、博士(学術)、コーチングエクセレンスセンター長。愛媛県出身。2001年3月に東大大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系で博士号取得。2008年4月より日体大准教授、2017年4月から現職。選手本位の「アスリートセンタード・コーチング」のモデル策定に取り組み、コーチングの発展・普及、コーチ教育などに取り組んでいる。国際コーチングエクセレンス評議会コーチング学位基準策定委員、日本体育協会モデル・コア・カリキュラム作成ワーキンググループ委員、日本スポーツ協会公認スポーツ指導者制度検討プロジェクト委員などを歴任。スポーツ庁委託事業女性アスリートの育成・支援プロジェクト「女性エリートコーチ育成プログラム」の運営責任者。
■井本 直歩子 / Naoko Imoto
東京都出身。3歳から水泳を始める。近大附中2年時、1990年北京アジア大会に最年少で出場し、50m自由形で銅メダルを獲得。1994年広島アジア大会では同種目で優勝する。1996年、アトランタ五輪4×200mリレーで4位入賞。2000年シドニー五輪代表選考会で落選し、現役引退。スポーツライター、参議院議員の秘書を務めた後、国際協力機構(JICA)を経て、2007年から国連児童基金(ユニセフ)職員となる。JICAではシエラレオネ、ルワンダなどで平和構築支援に、ユニセフではスリランカ、ハイチ、フィリピン、マリ、ギリシャで教育支援に従事。2021年1月、ユニセフを休職して帰国。3月、東京2020組織委員会ジェンダー平等推進チームアドバイザーに就任。6月、社団法人「SDGs in Sports」を立ち上げ、アスリートやスポーツ関係者の勉強会を実施している。
(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)