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日本に女性エリートコーチが少ないのはなぜ スポーツ界で固定された“男女の構図”とは

井本さんは、女性コーチと二人三脚で競技に取り組んでいた松田丈志さんの例を挙げた【写真:中戸川知世】
井本さんは、女性コーチと二人三脚で競技に取り組んでいた松田丈志さんの例を挙げた【写真:中戸川知世】

指導者陣に必要な多様性、女性コーチと二人三脚だった松田丈志さん

井本「なぜ、女性エリートコーチを増やさなければならないかのもう一つの理由として、スポーツ界や指導者にも多様性がないと、選手育成、トレーニングやプログラム運営に関するさまざまな判断が、偏ったものになってしまう懸念がありますよね」

伊藤「コーチングのスタイルにも色々ありますが、例えば、人の話を傾聴しながらどうするかを、選手と一緒に考えていくスタイルは足りていなかったりします。女性は比較的、このようなスタイルが得意とされていますが、今まで活躍されてきた女性のコーチは、男性コーチの固定されたイメージに引きずられすぎて、成功するためには『男性的』に振る舞わないといけなかったんじゃないかな。

 例えば以前、あるアーティスティック・スイミング(以下AS)の方が僕に、『もし自分がASのコーチになるとしたら、選手に対し、ガミガミ言わなきゃいけないのかと思っていました』と言ったんです。そこで僕は、『いや、重要なことは、あなたがどういうコーチになりたいのかで、今まで成功してきたコーチングモデルを基準に考えなきゃいけないわけではない。あなたがやれるコーチングをすれば結果を出せるはずだから、自身のコーチング・スタイルは、自分のパーソナリティそのものでいいんじゃないですか』と話しました。

 彼女のような考えが多くの人の根底にあったとしたら、これからはいわゆるトップダウン的なコーチングがだんだん薄れていき、話を聞く、対話することを重視するスタイルがどんどん出てくる。そうなってきたら、もっと多くの女性が、『あ、これだったら自分もできるかも』と思えるようになるかもしれない。男性にも、影響される人がどんどん出てくるといいですよね」

井本「元競泳オリンピアンの松田丈志さんは、久世由美子先生という女性のコーチとずっと二人三脚でやってこられましたが、久世先生はお母さんみたいな存在でした。そういう師弟関係もあるという、一つのユニークな形でしたね」

伊藤「もっともっと、そういった形の師弟関係がフィーチャーされていくといいですよね。色々なダイナミクス、多様な人がいることはとても重要です。我々のプログラムの中でとてもうまくいっていることの一つに、ボッチャの2人が入っていることがあります。健常者だけを教えているコーチたちも、パラの選手を受け入れる気持ちの準備ができています。

 女性コーチが必要な理由とも一致しますが、多様な人がいることで、今までの自分の枠の外が見えたり、多様な人や考え方を受けいれられるようになったり、いろんなことが考えられるようになる。そこがすごく重要です。

 僕は今年の1月から、日本パラリンピック委員会(JPC)の強化本部員になったんです。そこで、パラのコーチの質を高めるために新しく設置される、コーチ部会のコーディネートをさせていただけることになりました。今後、パラの女性コーチを増やすために、JPC女性スポーツ委員会等と協力して何かできないかといろいろ考えています」

(24日掲載の中編へ続く)

【中編】女性コーチが増えない日本のスポーツ界 「女性は男性を教えられない」は先入観?
【後編】競泳界の名将も「絶対大切」と賛同 日本の女性コーチ育成に「競技横断ネットワークを」

■伊藤 雅充

 日体大体育学部教授、博士(学術)、コーチングエクセレンスセンター長。愛媛県出身。2001年3月に東大大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系で博士号取得。2008年4月より日体大准教授、2017年4月から現職。選手本位の「アスリートセンタード・コーチング」のモデル策定に取り組み、コーチングの発展・普及、コーチ教育などに取り組んでいる。国際コーチングエクセレンス評議会コーチング学位基準策定委員、日本体育協会モデル・コア・カリキュラム作成ワーキンググループ委員、日本スポーツ協会公認スポーツ指導者制度検討プロジェクト委員などを歴任。スポーツ庁委託事業女性アスリートの育成・支援プロジェクト「女性エリートコーチ育成プログラム」の運営責任者。

■井本 直歩子 / Naoko Imoto

 東京都出身。3歳から水泳を始める。近大附中2年時、1990年北京アジア大会に最年少で出場し、50m自由形で銅メダルを獲得。1994年広島アジア大会では同種目で優勝する。1996年、アトランタ五輪4×200mリレーで4位入賞。2000年シドニー五輪代表選考会で落選し、現役引退。スポーツライター、参議院議員の秘書を務めた後、国際協力機構(JICA)を経て、2007年から国連児童基金(ユニセフ)職員となる。JICAではシエラレオネ、ルワンダなどで平和構築支援に、ユニセフではスリランカ、ハイチ、フィリピン、マリ、ギリシャで教育支援に従事。2021年1月、ユニセフを休職して帰国。3月、東京2020組織委員会ジェンダー平等推進チームアドバイザーに就任。6月、社団法人「SDGs in Sports」を立ち上げ、アスリートやスポーツ関係者の勉強会を実施している。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)


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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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