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五輪のマラソンを見て走りたくなった人へ 家を飛び出す前に知っておきたい注意点

「毎日20分くらいのんびり走る」も健康的で効果は高い

 前回第6回の記事でも触れたが、日本人の“指”の問題が健康に及ぼす影響もある。

「日本人は大人でも子供でも、足の指に適切に体重が乗らない『浮き指』といわれる人が半分以上というデータがあります。足の指にしっかりと体重を乗せて力が入らないと、アキレス腱も上手く作用せず、速く走る、効率的に走ることにとってマイナスです。健康面から考えると、指が使えないことで下肢も上手く使えず、血流にも影響が出てくると言われています。下肢が上手く稼働しなくなるとどうなるか。

 下肢には静脈が多く通っていて、静脈は血液を送り出すポンプ機能の役割を果たしています。ふくらはぎをもんだり温めたりしたら、血流が良くなると言われるのはそのため。指が使えないと下肢に影響が出て、血流が悪くなり、酸素が行き届かなくなって不健康になる。野口英世さんも『全ての病気の原因は酸欠にある』と言っています。健康を考える上では指や足の裏の筋肉を鍛えるというのも大切なキーワードになってきます」(伊藤)

 最後に、改めて大切なことを伊藤氏は説いた。

「健康増進のために走るなら、マラソン大会に出るわけではないので、スピードを求める必要はありません。形自体を『歩く』から『走る』に変えるだけで、カロリー消費はおよそ2倍になります。走ることでジャンプ運動が生まれ、1回あたりの筋肉への負荷が変わる。いくら遅くても体重のおよそ2、3倍は負荷が1歩あたりかかります。その負荷に耐えるために筋が稼働し始めると、ウォーキングより効果的です。すごくゆっくりなスピードで、はあはあ言う手前、これならしばらく走れるというペースで、10分~20分走るだけでも、健康効果を高める効果としては十分に意味があります。

 疲れたら一旦歩き、呼吸を整え、また走っても良い。僕も公園に走りに行くと、市民ランナーの速い方が置く走っているので、ゆっくりと走ろうと思っていたはずが、ムキになって頑張ってしまうこともありますが、本来は人と競うわけじゃなく、自分のペースで気持ち良く運動をすればいいわけです。大会に出る人はタイムや距離の設定を決め、それらをクリアしていくことに楽しさがありますが、これから走ろうとする人は違うところに目標を持って良い。今日は何分走れた、何日続けられた、そういう小さな目標をクリアしていくと自分の体が変化していくことを実感できるはずです。

 どうしても、今の日本のランニング事情は『走っているなら、次は大会に出るよね』という方向に向かっているように感じます。それももちろん大切なことですが、なんでもやり過ぎは身体に大きな負荷がかかります。アスリートはその最たるもので、自分の身を削りながらパフォーマンスアップを目指しているわけです。もう一方で自分のペースで毎日20分くらいのんびり走っているけど、それは健康のためで、これが一番効果が高い。そういう価値観や情報が広まればいいなと思います」(伊藤)

 正しく「痩せる」「健康になる」というそれぞれの目的のため、家を飛び出す前に知るべきことがある。

(後編「『走り』は人をどう幸せにするのか 五輪最終日、“走らず嫌い”が多い日本人への提案」に続く)

■伊藤友広 / Tomohiro Itoh

 1982年生まれ、秋田県出身。国際陸上競技連盟公認指導者(キッズ・ユース対象)。高校時代に国体少年男子A400メートル優勝。アジアジュニア選手権日本代表で400メートル5位、1600メートルリレーはアンカーを務めて優勝。国体成年男子400メートル優勝。アテネ五輪では1600メートルリレーの第3走者として日本歴代最高の4位入賞に貢献。現在は秋本真吾氏らとスプリント指導のプロ組織「0.01 SPRINT PROJECT」を立ち上げ、ジュニア世代からトップアスリートまで指導を行っている。

■秋本真吾 / Shingo Akimoto

 1982年生まれ、福島県出身。双葉高(福島)を経て、国際武道大―同大大学院。400メートルハードルで五輪強化指定選手に選出。200メートルハードルアジア最高記録(当時)を樹立。引退後はスプリントコーチとして全国でかけっこ教室を展開し、延べ7万人を指導。また、延べ500人以上のトップアスリートも指導し、これまでに内川聖一(ヤクルト)、槙野智章、宇賀神友弥(ともに浦和)、神野大地(プロ陸上選手)、阪神タイガース、INAC神戸、サッカーカンボジア代表など。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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