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スポーツ界のSNS中傷問題の裏にある課題 伊藤華英「メンタルトレーナーの価値向上を」【THE ANSWER Best of 2021】

アスリートを守るためにすべきは2つ「メンタルサポートの充実を」

 SNSの中傷からアスリートを守るためにすべきことは2つあると思います。1つ目はアスリートのメンタルサポートの充実です。今、日本で認定されるのは日本スポーツ心理学会で資格を持った人に限られていますが、そういう専門のスタッフが介入していくこと。


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 最も理想的なことは各競技に常駐することです。選手からしても1か月に1度講習に来る程度でもありがたいのですが、それでは信頼関係がなかなか築けない。どういう人か分からなければ、本当に困った時に話せない。コーチと同じようにチームに帯同することなのかもしれません。

 そもそも、メンタルトレーナーとはどういう仕事なのか。本当に多くの領域がありますが、一つは心のセルフコントロールをできるようにスキルアップしていくこと。トレーニング方法が多く存在し、何か不安に直面した時に「まずはこの場所から離れよう」と判断したり、「自分はちゃんと準備してきたから大丈夫」と自分に言葉をかけたり。意識しないとできないことであり、それも一つのスキルです。

 例えば、今大会のサーフィン、マラソンのように競技日程が変わったとする。でも、技術のトレーニングと同じように、しっかりとメンタルトレーニングが、本番で何かあった時に「自分は大丈夫なんだ」という裏付けになる。ちょっと落ち込んだ時に自分を持ち直せるレジリエンス(回復力)を獲得できるようにトレーニングするなど、メンタル面からパフォーマンスを上げていくのが彼らの仕事です。

 しかし、今はフィジカルトレーナーがそれを担っている部分もあります。コーチに話せないことを聞いてあげて、不安を解消する。現実として、メンタルトレーナーの役割と価値が確立されていません。定期的にサポートをしている競技は多くありますが、給与も人それぞれ異なり、どの程度の頻度で担当するか契約も難しい。五輪に行ってもメンタルトレーナーはIDが配布されないという壁もあります。

 ソフトボール代表は珍しくメンタルトレーナーが帯同している競技です。選手と一緒に長期合宿も参加し、この5年間ずっと支えてきましたが、大会中に選手たちと会場外でのコミュニケーションだったと聞きます。そういう点から差が生まれる時代だと思います。

 もう一つは、各競技団体がアスリートからの声を吸い上げ、しかるべき機関に、例えば、五輪競技ならJOCに文書として提出すること。今、スポーツ界の課題として取り上げられている性的画像問題も日本陸連が発信したことから大きな動きにつながったわけです。そして、JOCや多くのスポーツ団体が取りまとめてスポーツ界全体として動くことが最も大切です。

「こういうアカウントはブロックしてください」という個々の指導は限界があり、根本解決にはなりにくい。性的画像問題も逮捕者が出て、件数がかなり減ったと聞きます。これはいけないことだと世の中に毅然と示していく。アスリートは言われても仕方ない、言論の自由だという意見があっても、スポーツ界全体で取り組む姿勢が必要です。

 最後に。改めて、これは競技生命にかかわり、選手がスポーツ界で活躍できなくなる可能性を秘めた問題です。もし、こうした声に直面している選手がいるなら、どうか一人で悩まないでほしい。決して、あなたが悪いわけじゃない。頑張ったことに誇りをもって前を向いてほしいと思います。そして、スポーツ界として受け止めて、みんなで解決し、アスリートを救っていかなければいけません。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)




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伊藤 華英

 日本代表選手として2012年ロンドン五輪まで日本競泳会に貢献。2004年アテネ五輪出場確実と騒がれたが、選考会で実力を発揮できず、出場を逃す。水泳が心底好きという気持ちと、五輪にどうしても行きたいという強い気持ちで、2008年女子100m背泳ぎ日本記録を樹立し、初めて五輪代表選手となる。

 その後、メダル獲得を目標にロンドン五輪を目指すが、怪我により2009年に背泳ぎから自由形に転向。自由形の日本代表選手として、世界選手権・アジア大会での数々のメダル獲得を経て、2012年ロンドン五輪・自由形の代表選手となる。2012年10月の岐阜国体を最後に現役引退。

 引退後、ピラティスの資格取得とともに、水泳とピラティスの素晴らしさを多くの人に伝えたいと活動中。また、スポーツ界の環境保全を啓発・実践する「JOCオリンピック・ムーヴメントアンバサダー」としても活動中。

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