比嘉大吾は帰ってきていない 闘争心失い、陥った野獣の迷路「やる理由がわからない」
複雑な胸中吐露、出来が悪くても「悔しくない」「緊張感がない」
階級を上げることなどを条件として昨年10月にJBCの処分が解除。1年10か月ぶりの試合が決まり、また戦う舞台が整った。トレーナーは友利正氏に変更。約60キロまで体重を戻し、久々に本格的な減量をスタートさせた。再び踏み入れた過酷な道。失った時間を取り戻すように汗を流したが、大切なものが心に宿ることはなかった。
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「やる理由がわからないと思いながら練習していた。試合前から何の思いもなく来たので今の結果。試合って感じがしなかった。緊張感がないし、何もない。試合中はマジできついと思って後悔した。やばいと思って、1ラウンド続けられるのかなと。ただの力不足です。
ボクシングはそんなに甘くないですよ。試合をしたらこのざまですから。とりあえず勝ててよかったけど、今回は自分の意思でここまで来られたわけじゃなかったし、応援が凄くてその人たちのために勝ててよかった。
いつも緊張するけど、今回は入場からニヤニヤしてリングインまで楽しかった。それは初めて。でも、それは緊張感がないということ。それくらい試合だと思っていなかった。自分に情けなさを感じる。本気でやっていたらこれが悔しいと思うけど、悔しいってわけでもないです」
本能を掻き立てられたように倒しにいく姿勢が垣間見えたが「気持ちと体が違う。ファンの声の大きさと一致していない」と会場の大歓声とは裏腹に、心の中は真逆だった。「(相手の懐への)入り方を忘れていて、うまくいかなかった。パンチは見えているけど、体がついていかない。練習不足というのもあります。でも、言い訳できない。それがプロなので」。仕留め損ねた場面があったことも自覚している。そして、大勢の記者に囲まれながら言葉を絞り出した。
「闘争心もないし、ただ前に出ればいいやというボクシング。手応えもないし、疲れたし、どうしようという感じ。頭も回らない。どうしたらいいかわからない。何て言えばいいんだろう」
地道な練習、ロードワーク、過酷な減量、殴り合いへの恐怖を乗り越えなくては続けられない。そのために必要な「闘争心」が芽生えなかった。「2年も休んで『またかよ』と思われるかもしれないけど、頭を整理しないとやっていてもチャンピオンになれない。自分に期待していない部分もある。決まった試合をこなした感じ。実感がわかないし……」。今後はしばらく時間を置く可能性も示唆した。
復帰に向けてたくさんの支えがあった。恩を返す。「それしかモチベーションはない」と練習を乗り越えてきた。「計量失敗しても見捨てなかった個人スポンサーはいるんですよ。そこに対して恩返ししたい気持ちもある。本当に申し訳ないです」。故郷・沖縄から250人の応援団が駆け付けた。地元紙の記者に思いを問われ「ありがたいですよ。だからこそ真剣に取り組まないと失礼」と言葉を紡いだ。
前日計量直後、試合への意気込みについても「何とも思っていないですね。“無”です。試合前になると、たぶん何か出てくる。今のところは全くです」と答えていた。リングに上がれば「何か」が生まれるかもしれない。そう期待していたが、魂をぶつけるはずの時間は儚く過ぎていった。現在はWBC世界バンタム級7位にランク入り。陣営は世界再挑戦を描いていたが、今後については「わからないです。自分にもわからない」と複雑な表情を見せた。
デビューから続いていた日本記録タイの15戦連続KO勝利。誰よりもKOが似合う男だった。世界から才能を期待され始めた2年前。「Beast(野獣)」と海外メディアに名付けられ、米国進出もすぐそこまで来ていた。「18歳で東京に出てきて夢を追っていた頃の闘争心が今の自分にはない。それは見ている人にもわかると思う。それがないとチャンピオンなんかなれない」。2年の空白は長かった。まだ24歳。じっくり考えながら、迷路の出口を探していく。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)