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100mを「3か月で1秒」短縮 “世界最速”ボルトと練習し、導き出した「究極の走り」

和田はジャマイカのスプリント理論を練習に取り入れていった【写真:小林靖】
和田はジャマイカのスプリント理論を練習に取り入れていった【写真:小林靖】

仮説に微調整を加えながら見えた「走る技術」の全貌

「ジャマイカのトップスプリンターたちは、自分より足を入れ替えるタイミングが速いのではないか。実際に片足が地面に着くタイミングで、もう逆足の膝を上げ切っている。彼らは自分とは、まるで違う方法で地面を捉えているから、接地時間が短いのではないか」

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 走る技術の全貌が見え始めた。

 振り上げた足はそのまま地面に下ろすだけだが、接地した逆足は重力に逆らって長い距離を移動していく。普通は片足が接地する時点で、膝は上がりきらない。片足が接地した瞬間に膝を上げきるためには、地面からの大きな反発を活かす必要がある。だからジャマイカの選手たちは、爪先を持ち上げる強靭な筋力を備え、大きな接地音を響かせていたのだ。

 和田の課題は明白になった。それまで使ったことのなかった足首の筋力を鍛え、瞬間的な接地で最大限の反発力を引き出していくことだった。それが可能になれば、片足が接地した瞬間に逆の膝を上げきる高速回転が可能になるはずだった。

 和田は仮説に微調整を加えながら、何十回、何百回と実験を繰り返した。そしてジャマイカへ来て1カ月半ほどが経過した頃だった。

 和田の走りを見て、まずロンドン五輪(2008年)200メートル銅メダリストのウォーレン・ウィアが「今のはいいぞ」と言った。

 そしてコーチも続いた。

「腕振りが良かった」

 結局下半身の動きを改良した結果、それに伴って腕振りも改善されていたのだった。

 振り返れば、コーチは最初に肝心なポイントを伝えていた。

 踵から接地したのでは、バネが使えず、地面からの反発力を活かせない。足が遅い人は、接地時間が長く後ろ足が残ってしまうので、重心が低くなりブレーキがかかるという悪循環に陥ってしまう。和田はジャマイカの選手たちと比べても、足を振り下ろす力は変わらなかった。しかし接地してから跳ね返ってくる力がまるで違った。

 それから和田は、接地する際に反発力を高めるトレーニングを考案した。ミニハードルを飛び越えて、踵を着かずにピタリと止める。走行中の接地時間はコンマ1秒。その一瞬で体の各部位を適正な位置に固定する筋力がつくと、反発力が増すことが分かってきた。

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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