エディー日本、夏の7試合で顕著だった「186.3」 世代交代に舵切り、日本の弱点ポジションに“隠し球“
ラグビー日本代表はパシフィックネーションズカップ(PNC)を準優勝で終え、来月からはニュージーランド(NZ)代表ら世界トップクラスの強豪との対戦に挑む。9シーズンぶりにヘッドコーチ(HC)に復帰したエディー・ジョーンズの下で「超速ラグビー」というコンセプトと世代交代を模索しながらPNCを勝ち進んだが、9月21日の決勝では、昨秋のワールドカップ(W杯)8強のフィジーに17-41と完敗した。3勝4敗で終えた夏のテストマッチシーズンの戦いぶりからは、新生ジャパンの成長と課題、そして指揮官が思い描く2027年ワールドカップへ向けたセレクション構想も見えてきた。(取材・文=吉田 宏)
3勝4敗で終えた夏のテストマッチシーズン 成長と課題、2027年W杯へのセレクション構想
ラグビー日本代表はパシフィックネーションズカップ(PNC)を準優勝で終え、来月からはニュージーランド(NZ)代表ら世界トップクラスの強豪との対戦に挑む。9シーズンぶりにヘッドコーチ(HC)に復帰したエディー・ジョーンズの下で「超速ラグビー」というコンセプトと世代交代を模索しながらPNCを勝ち進んだが、9月21日の決勝では、昨秋のワールドカップ(W杯)8強のフィジーに17-41と完敗した。3勝4敗で終えた夏のテストマッチシーズンの戦いぶりからは、新生ジャパンの成長と課題、そして指揮官が思い描く2027年ワールドカップへ向けたセレクション構想も見えてきた。(取材・文=吉田 宏)
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
◇ ◇ ◇
第2次エディー体制での初タイトルというハッピーエンディングに至らなかった苦杯を、指揮官はこう総括した。
「この試合では、どこをみてもフィジーに勝る部分がなかった。セットピース、ブレークダウンでのコンテスト、そして空中戦といずれもです。選手たちはハードワークを続けていますが、実力が不足していた。しかし、この試合は我々の現状を確認するいい機会だったと思うし、不足している部分が何だったのかを確認出来た試合だった」
W杯ベスト8、世界ランキング10位(対戦当時)のフィジーとの決戦は、後半突き放されての大敗に終わった。準決勝ではフィジカル勝負を挑んできたサモアに組織で対抗。個々のパワー差を、ダブルタックルなど人数、運動量で補った。ボールを持てば強みのスピードで6トライを重ね、同カード過去最多スコアで乗り越えた。しかし、サモア同様のサイズ、パワーに加えて、奔放なアタックという伝統を誇り、加えて元日本代表スキルコーチで、ニュージーランド、オーストラリアなどでの指導経験が豊富なミック・バーン新HCが落とし込む戦略をミックスしたフィジー相手には負の側面を露呈した。
両チームとも世代交代を意図して若手主体の布陣で、先発15人の平均値を見るとキャップ数で日本の13.2に対してフィジーは12.7、平均年齢は日本の26.7歳、フィジーが25.7歳と、経験値は似たようなメンバー構成だった。だが、ゲーム自体は10-10で折り返しながら、後半は残り2分まで日本が敵陣22mライン内に攻め込めないほど力の差は歴然だった。
PNC4試合の戦いぶり、そして6月の新体制初陣からのテストマッチ全7試合から浮かび上がるのは「組織としていかに機能するか」という第2次エディージャパンの命題だ。エディーはこれを「一貫性」という言葉を使ってきた。
スタートラインとなったイングランド戦では、世界ランキング5位の強豪にもスピードで脅威を与えるシーンを何度か見せた日本だったが、その闇雲にハイスピードで攻めようとするスタイルでパスミス、連携ミスを連発。プレー精度、決定力の低さを露呈した。試合前はランキング下位だったジョージアにも敗れるなど、シーズン序盤戦は精度の低さも響いて、チームのスタイルを80分間出し続けられない戦いが続いた。その苦闘の中で、選手は「一貫性」を高める作業も続けていた。練習、実戦と時間をかければ当然チームとしての完成度やコンビネーションは高まるが、チーム内でも一貫性を高めるための取り組みが積み上げられていたことを、フィジー戦前日の囲み取材でCTB/WTB長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ)が語っている。
「イングランド戦の時は超速ラグビーという大きな枠組みは与えられたけれど、正直言うとそれが本当にどういうものか分からずに試合をやっていた。これが本当に自分たちがやるラグビーなのかという疑問もあったが、試合を重ねる毎に工夫をして、選手の中で自分たちの役割がすごく明確になってきたと思います。スピードを上げる部分と、すこしコントロールしてエリアを取ったりする部分は整備されてきた。試合でも、ビデオを見ながらでも話し合いをしながらやっています」
エディーが「現状を認識するいい機会」と語ったように、フィジー戦は日本代表の“いま”をよく物語っている。速いテンポの自分たちの流れを掴めば、世界10位にも十分に渡り合える一方で、許容範囲を超えた重圧を受けると、プレー、戦略にブレが生じて組織としての一貫性を失ってしまう。この試合での後半15分、19分の失点が象徴的だったのは、自陣での戦いを強いられる中で、プライオリティーを置くべきなのは失点のリスクを回避するための自陣からのエスケープだったはずだが、チームは無理なラインアタックを仕掛けて、結果的にPG、トライを許している。
フィジーのような卓越した個人技を持つ相手なら、なおさら自陣での戦いを避けるエリアマネジメントが鉄則だがSH藤原忍(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)は「プレッシャーで、無理に(パスを)放らなくていいところで放ってしまったり、コミュニケーションが取れていないところで放ってしまった」と振り返った。ここまで勝ち上がってきたPNCでは、試合ごとにプレーの選択も進化してきたが、フィジー相手にはシーズン序盤のイングランド戦、ジョージア戦当時に戻ったように、闇雲で判断の悪いプレーを見せていた。
裏を返せば、適切なプレーを選択して、しっかりとゲームをコントロール出来れば、ランク10位とも十分に戦える可能性も示したことになる。新体制スタート時点では、チームを統制出来ないシーンもあったSO李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)が7試合中5戦で先発出場して、テストマッチプレーヤーとしての経験値を伸ばしたのは収穫の1つ。李と共にゲームを組み立てるHB団を組んだ藤原も、フランスの強豪クラブスタッド・トゥールーザンでの挑戦を優先して代表を離脱した齋藤直人に代わり4試合に先発。「リーグワンでは味わえないプレッシャーの中でプレー出来た」とテストラグビーというこれまでとは異次元のステージでプレーするためのプラス材料になったのは間違いない。