[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

“8部リーグ”から7年でJ2昇格 いわきFCの奇跡の物語を生んだ、元J1クラブ社長の決断

ゴール裏に貼られた「浜を照らす光であれ」の横断幕。いわきサポーターのクラブへの願いが込められている【写真:宇都宮徹壱】
ゴール裏に貼られた「浜を照らす光であれ」の横断幕。いわきサポーターのクラブへの願いが込められている【写真:宇都宮徹壱】

いわきFCが「浜を照らす光」となるために

「Jクラブは地域を喜ばせる活動をやらなければいけないわけですが、(いわきの場合は)スピード感が凄い」

【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら

 いわきグリーンフィールドでの開幕戦に、視察で訪れていたJリーグの野々村芳和チェアマンは、試合後のメディアブリーフィングで、このように述べている。

 ドームの子会社として、クラブが現体制となったのが2015年末。それからわずか7年でJ2まで上り詰める間、いわきFCは地域の風景を確実に変えていった。

 2017年には物流センターの近くに、人工芝のグラウンドと商業施設を併設したクラブハウスを設立(この時、県1部だった)。県リーグや東北リーグでの試合開催やトレーニング以外にも、スポーツと交流の場として市民に広く開放されてきた。

 JFLに昇格後は、天然芝のいわきグリーンフィールドでホームゲームを開催。J2ライセンス取得に向けて、2022年6月から改修工事に入ると、19年から再稼働を始めたJヴィレッジを使用した。2011年以降、原発事故対応の拠点となっていたJヴィレッジでJリーグの公式戦が行われたのは、地域にとって象徴的な出来事だったと大倉は言う。

「震災を経験した人たちにとって『その後、Jヴィレッジはどうなったんだろう?』という思いはあったはず。だからこそ、鹿児島ユナイテッドFC戦では、過去最多のお客さん(4419人)が来てくれたんだと思います。そしてJ2開幕戦では、照明と大型ビジョンが設置されたグリーンフィールドで試合ができて、福島県知事も試合に来てくれました。我々のことを『県の代表』と見てくれていたのかもしれません」

 現在のいわき市長もまた、いわきFCについて「単なる地元のサッカークラブではなく、街づくりのパートナー」と明言している。嬉しさもある一方で「怖さも感じている」と大倉。勝負の世界ゆえ、勝ち負けはあるし、降格するリスクだってあるからだ。

 そんななか、クラブにとって密かな指針となっているのが、サポーターがゴール裏に掲げた「浜を照らす光であれ」──。そこには「浜通りの輝かしい象徴であり続けてほしい」という、サポーターの願いが込められている。

「クラブがどうなれば、本当の意味で光になれるのか、僕自身もよく分かっていないんですよね。どれだけファン・サポーターが増えて、どれだけ立派なスタジアムを作ったとしても、そこがゴールではない。たぶん、この地に新しい価値観を提供できているとは思うんです。けれども震災復興も落ち着いて、コロナも収束に向かいつつあるなか、いわきFCは何を提供できるのか? まだまだ、自分自身への問いかけは続いています」

 その問いかけが続く限り、いわきFCというクラブは一歩ずつ「浜の光」へと近づいていくことだろう。(文中敬称略)

(宇都宮 徹壱 / Tetsuichi Utsunomiya)

1 2 3 4

宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

W-ANS ACADEMY
ポカリスエット ゼリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬
DAZN
スマートコーチは、専門コーチとネットでつながり、動画の送りあいで上達を目指す新しい形のオンラインレッスンプラットフォーム
THE ANSWER的「国際女性ウィーク」
UNIVAS
N-FADP
#青春のアザーカット
One Rugby関連記事へ
THE ANSWER 取材記者・WEBアシスタント募集