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W杯優勝候補が仕掛けた“日本封じ”の罠 欧州遠征2連戦で得た学びと8強突破への宿題

エディーHCが仕掛けたもう1つの日本封じ

 過去のコラムでも指摘してきたように、日本代表のラグビースタイルは、他の強豪国以上に時間をかけて、高い精度の上に構築されている。それはサポート選手の走り込む角度や、どの選手がどんな立ち位置でプレーするかという精緻な役割分担などに表れているのだが、イングランドのエディーHCはラッシュアップ、つまり早いプレッシャーをかけることで、このような精密さを狂わせ日本の戦闘能力を低下させることに成功している。

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 このラッシュアップとも密接に関連するもう1つの日本封じが、ブレークダウンでの“見切り”の良さ、早さだ。ゲーム中の動きを見ていると、日本選手は国内合宿でも重点的に取り組んできたダブルタックルで、2人の選手が間髪を入れずに相手に飛びかかろうとしているのに対して、イングランドの選手は1人ひとりが状況を見ながら密集に入るか、入らないかを判断して、密集戦に極力人数をかけずに次のプレーに備えて防御ラインに参加していたのが印象的だった。

 顕著だったのは、前半29分の日本の自陣10メートルラインでのスクラムからの攻撃だ。日本は鮮やかな右ワイド展開から3回のブレークダウンを作っている。その攻防でイングランド防御が密集戦にかけた人数は、ブレークダウンごとに1、0、2人。その一方で、日本側が同じ密集戦にかけた人数は3、2、2人。日本もテンポを上げようと努力しているが、イングランドの密集にかける人数が少ないことで、日本は次の攻撃フェーズでも自分たちより多くの選手に防御されていたため、優位な状況を作れないアタックが続いた。結局、日本は3度目のブレークダウンからの左展開をしっかりと守り切られて、FL(フランカー)リーチ・マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)がタッチラインから押し出されて攻撃権を失っている。

 攻撃するチームが防御側よりも人数をかけてしまう傾向は、どのテストマッチでも見ることができる。ブレークダウンでボールを保持するために、ボールキャリアーをサポートして2人目、3人目の選手が密集を作ることが必要な一方で、防御側はラックに持ち込めれば、複数の人数をかける必要はない。少なければ1人、最高の状況なら人数を1人もかけずに、次の攻撃に備えた防御に選手が回ることができる。

 日本代表もブレークダウンに人数をかけない意識づけは、しっかりと練習から積み上げているのだろう。後半7分の自陣ゴール前での防御では、3度のブレークダウンにかけた人数は、1、1、2人。イングランドの2、2、4人の半数で守っている。だがイングランドとは対照的なことに、日本がラックで人数をかけずに守ったにもかかわらず、次の展開(4次攻撃目)でゴールラインを割られてトライを許している。

 後半28分のプレーも両チームのブレークダウンの明暗を物語っていた。ミッドフィールドでのラックで日本が3人の選手でボールを確保している一方で、イングランドは1人しか人数をかけていない。そして、ラックに入らず密集サイドの防御に立っていたWTB(ウイング)ジョニー・メイが、ボールをパスアウトしようとしたSH流大(東京サントリーサンゴリアス)を潰してターンオーバーに成功。その後の攻撃で日本からペナルティー(認定)トライを奪っている。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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