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金メダルを狙って、わずか1勝&12か国中11位 7人制ラグビー日本が惨敗に終わった理由

十分に機能しなかった日本の戦い方

 今回の五輪での各国の戦い方を見ると、7人制の現在の潮流が明らかになる。過去には、ボールを後方に下げながらでも大きくパスを回して、相手防御のギャップを探し、同時にステップや個人技で崩していくのが7人制特有の戦い方だった。ボールを持った選手が、時には足を止めて間合いを測るなど、敵の陣形を見定めながらチェンジオブペースを駆使して防御を崩すのも妙味だった。だが、五輪種目入り、国際サーキットの創設などの影響で各国が本格的な強化を進める中で、戦術性を高め、防御システムも進化させてきた。7人制も、よりフィジカルで、15人制のスタイルに近づいてきているのだ。

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 五輪の試合の中で印象的だったのは、フィジーが相手反則で得たPKからタッチキックを選んでいたことだ。フィジーは、俊敏さとセオリーに囚われない変幻自在なステップ、パスで世界中のファンを魅了してきた。10年前のこのチームなら、PKを得れば、どこからでも速攻を仕掛けていただろう。もちろん日本戦も含めて、敵陣でのPKでは速攻からトライを狙ってきたが、自陣では陣地を進めるためのキックを使う場面を何度も見た。

 15人制に比べるとスクラムなどのセットプレー、激しい肉弾戦を減らして、常にボールを動かし続けるのが特徴だった。だが、今は“セブンズ王国”ですらセットプレーからの攻撃を組み立て、ブレークダウンの攻防でも激しい肉弾戦を繰り広げている。相手を抜き去るのが大きな特徴だった7人制は、システムの進化で、アドリブだけでは防御を崩すのが難しい時代を迎えている。そのため、セットプレーを起点としたサインプレーや、接点でのパワー勝負を重視する競技に変貌を続けている。

 この傾向は、日本代表も変わらない。「ビー・ラグビー」に象徴される運動量、スピードをベースとした戦い方を目指す一方で、トライを獲るための起点として、セットプレー、ブレークダウンでのコンタクト強化にも取り組んできた。6月に発表された五輪メンバーでサプライズだったのは、坂井克行、小澤大といった、ここまで日本代表を牽引してきた多くのベテラン選手が選ばれなかったことだ。リオ五輪経験者は12人中わずか4人と少ない中での判断。替わりに、海外出身選手は3人から半数に近い5人に増えている。この海外勢に求められるのが、高い経験値と同時に、接点での攻防やセットプレーで重要なフィジカルの強さだ。

 だが、五輪本番では、ちぐはぐさを露呈した印象が強い。完敗した英国戦を見ても、日本選手は、防御で相手の力任せのパワー勝負に苦しめられた。1対1のコンタクトでは、力負けする場面が多かったのだ。日本の海外出身選手が防御に入る時は、相手は無理せずラックに持ち込みボールをキープ。次のフェーズで日本選手が突破されるシーンも多かった。

 日本代表の場合、ピッチに立つ7人の選手の国内外出身の割合は3、4人ずつ。日本らしい機動力を重視したスタイルを目指しながら、フィジカル面の強度アップで海外勢に頼らざるを得ないため、このような編成になるのは止むを得ない。しかし、日本代表がどのようなラグビースタイルで世界のトップ3に食い込もうとするのかという観点から見ると、スピードや運動量で相手を完全に上回れず、パワーでも互角以上には戦えていない。チームの目指す戦い方を、明確に打ち出すことが出来なかったという印象だ。

 選手のコメントからは、マインド面での弱さも読み取ることができた。決勝トーナメント進出の可能性を断たれたカナダ戦後、松井主将は精彩を欠いたチームの精神状態を、こう語っている。

「(カナダ戦前の英国戦で)フィジカルの部分で圧倒されてしまった。完封負けを喫して、気持ちが切れてしまった」

 英国に完敗しての開幕2連敗で、5年という歳月をかけて目指してきたメダル獲りが、現実的には相当厳しいと突き付けられたのは間違いない。落胆は大きかった。カナダ戦には、わずかな可能性を残しながら「気持ちが切れて」しまっていたという。しかし、対戦相手は対照的だった。日本と同じように開幕から2戦2敗、フィジーと競り合い、英国に大敗という戦いぶりまで同じだった。だがカナダは、決勝トーナメント進出を諦めてなかった。日本かカナダがトーナメントに進むためには、直接対決を勝ってプール戦3位となり、なおかつ全プールの3位の中で得失点差などで上位2チームに入ることが条件だった。そのために、カナダは日本戦キックオフから大量得点を目指して、リスク覚悟で積極的に攻め続けた。終わってみれば、日本にとってはプール3試合の中でワースト失点だった12-36での完敗。そして、カナダは形成不利を跳ね返して、決勝トーナメント進出を果たしている。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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